環境問題

パナマ運河とは?|パナマ運河の干ばつが企業に与える影響について解説

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パナマ運河とは?|パナマ運河の干ばつが企業に与える影響について解説

近年、パナマ運河は干ばつの影響で大きな危機を迎えています。この国際的に重要な航路は、世界中の物流を支える大切な役割を果たしていますが、気候変動やエルニーニョ現象の影響で、運河を支えるガトゥン湖の水量が大きく減ってしまいました。このため、船の通行制限が続き、世界中の物流が混乱しています。この影響は企業にも広がり重要な課題となっています。ここでは、パナマ運河についての概要や、干ばつがもたらす危機、干ばつによる企業への影響、さらにはパナマ運河の解決策について分かりやすくご紹介します。

パナマ運河とは(パナマ共和国)

パナマ運河は、中央アメリカに位置するパナマ共和国にある世界的に重要な航路です。この運河は、地理的な特性をうまく活かし、国際貿易や海上交通の重要な拠点として役立っています。

パナマ運河とは

パナマは1821年にスペインから独立しました。その後、コロンビアに併合されましたが、中央政府への不満が強く、運河建設の経済効果を期待する地元有力者たちが独立を計画しました。そして1903年、米国の支援でパナマはコロンビアから独立。その直後、米国が運河建設を始め、1914年にパナマ運河が完成しました。この運河は、大西洋と太平洋を繋ぐ約80kmの閘門式運河で、世界貿易の重要な要所となりました。運河中央にあるガトゥン湖は人造湖で、湖面は海抜26mに位置しており、船舶は運河に設置された3段階の閘門を通じてガトゥン湖の湖面まで引き上げられます。その後、湖を航行して運河を進み、出口では再び3段階の閘門を使い、ゆっくりと海面の高さまで降ろされます。

パナマ共和国

alt属性:パナマ共和国

出典:外務省『探検しよう!みんなの地球』(2011/09/14)

出典:外務省『パナマ基礎データ』(2024/07/25)出典:在パナマ日本国大使館『パナマ運河の現状』p,1.(2023/04/14)

パナマ運河が重要視される理由

パナマ運河は1914年に完成して以来、国際貿易や海上交通の中で欠かせない存在となっています。この運河は、大西洋と太平洋を結ぶ重要な航路として、多くの船舶を支え、特に米国、アジア、ヨーロッパ間の輸送効率を高め、コスト削減にも大きく貢献しています。また、2001年の米国同時多発テロ以降、エネルギー資源をはじめとした重要な物資の輸送を担う戦略的な役割が、さらに注目されるようになりました。さらに、最近ではコスタリカの港が混雑する中で、パナマはその強力な物流システムを活かし、自国の港を経由して陸路でコスタリカ向けの貨物を運ぶ対応を行っています。こうした対応力は、パナマのインフラが非常に安定しており、中米地域全体の物流基盤として重要な役割を果たしていることを示しています。

出典:在パナマ日本国大使館『パナマ経済(2024年12月報)』(2025/02/16)

出典:一般財団法人運輸総合研究所『パナマ運河の脆弱性が米国経済安全保障に及ぼす影響に関する一考察』p,3.(2024/08/22)

パナマ運河の干ばつ危機

世界の物流を支える重要な航路であるパナマ運河が、今、干ばつの深刻な問題を抱えています。この干ばつを引き起こしている原因のひとつとして浮上しているのが、「エルニーニョ現象」です。

長引く干ばつの深刻化

2023年、パナマ運河周辺地域は観測史上でも特に乾燥した年のひとつとなりつつあります。パナマ運河庁とスミソニアン熱帯研究所(STRI)の発表によると、この地域の降雨量は通常の30〜50%ほど少なく、ガトゥン湖の水量も過去最低レベルに達しているとのことです。この影響で、2023年6月以降、パナマ運河の運営当局は船舶の通行数や規模を調整せざるを得なくなり、世界的な物流に影響を及ぼしています。

出典:国際農研『1018. パナマ運河の低水量はエルニーニョ現象が原因 』(2024/05/16)

出典:ロイター『アングル:水不足のパナマ運河で船滞留、今後のニューノーマルか 』(2023/08/25)

干ばつの原因は「エルニーニョ現象」

極端な気象現象と気候変動の関係を調査しているWorld Weather Attributionによると、今回のパナマ運河の水量減少にはエルニーニョ現象が関係している可能性が高いとのことです。エルニーニョ現象が起きると、乾季の訪れが早まり、気温が平年よりも高くなる傾向がパナマではよく見られます。その影響で、ガトゥン湖の水が蒸発しやすくなり、水量が減少してしまうそうです。また、パナマ運河の109年の歴史の中でも、特に過去25年間ではエルニーニョ現象に伴う乾燥が以前よりも頻繁に発生していることが指摘されています。

出典:国際農研『1018. パナマ運河の低水量はエルニーニョ現象が原因 』(2024/05/16)

出典:ロイター『アングル:水不足のパナマ運河で船滞留、今後のニューノーマルか 』(2023/08/25)

パナマ運河干ばつが与える企業への影響

記録的な干ばつの影響で運河の運用が制約を受け、物流、小売業、中小企業をはじめ、サプライチェーン全体にわたるさまざまな課題が生じています。この状況は、輸送の遅れやコスト増加をもたらし、企業にとっては経営戦略や供給体制の見直しが必要となる重要な局面となっています。

物流業:船舶遅延や代替ルートの検討でサプライチェーンへの影響

パナマ運河では、干ばつの影響により、主要な水源であるガツン湖の水位が大きく低下しています。この水位の安定は運河の運用に欠かせないものですが、干ばつによる水不足や過剰な降水は通航に直接響きます。結果として、通航できる船舶の数が大幅に制限され、多くの船が代替ルートを選ばざるを得なくなりました。こうした制約は、世界の貿易と物流に影響を与え、輸送コストの増加やサプライチェーンの遅延を引き起こしています。現在は、2023年末からの深刻な干ばつを受けた通航制限は解除されましたが、通航料の引き上げや一部荷主による長距離航路の選択が影響し、通航枠の回復にはまだ一定の課題が残されている状況です。

出典:一般財団法人運輸総合研究所『パナマ運河の脆弱性が米国経済安全保障に及ぼす影響に関する一考察』p,5.(2024/08/22)

出典:ロイター『パナマ運河、1月通航量は約1年ぶり前月比減少 空き枠埋まらず 』(2025/02/12)

中小企業:貿易コスト増が利益を圧迫し、代替ルート確保が困難

パナマ運河は、太平洋と大西洋を結ぶ重要な海上ルートであり、世界貿易を支える大切な存在です。その運用が制限されると、貨物の遅れや輸送コストの増加といった影響が国際貿易全体に及びます。特に中小企業にとっては、コスト増加が利益を圧迫し、代替ルートの確保が難しい状況となっています。2023年の制限では、世界全体で約20億ドル以上の経済損失が発生したと推定されており、企業にとっても大きな負担となっています。また、アメリカ東海岸の主要港(ニューヨーク・ニュージャージー港、サバンナ港、チャールストン港、バージニア港、マイアミ港)はアジアからの輸入品の重要な受け入れ拠点であり、パナマ運河の運用制限はこれらの港への物流に影響を及ぼしました。その結果、輸送時間の延長やコスト増加がサプライチェーン全体にわたり、混乱を招いています。

出典:一般財団法人運輸総合研究所『パナマ運河の脆弱性が米国経済安全保障に及ぼす影響に関する一考察』p,6.(2024/08/22)

製造業・小売業:原材料・部品の供給遅延

日本の輸入穀物、特に米国産のとうもろこしや大豆は、主にメキシコ湾(ガルフ)からパナマ運河を経由して輸入されています。しかし、最近のパナマ運河の水位低下の影響により、地中海からスエズ運河、紅海、インド洋を経由するルートを選択するケースが増えています。そのため、米国の太平洋岸や喜望峰を経由するさらなる代替ルートへの切り替えが必要となり、航海日数の増加によるコスト負担や輸送遅延が懸念される状況です。こうした状況は、特に製造業や小売業において、原材料や部品の安定供給に課題をもたらしています。そのため各企業は、物流戦略を見直し、コスト増や遅延リスクを軽減するための柔軟な対応が求められています。

出典:農林水産省『食料安全保障月報 (第 30 号)』p,4.(2023/12/27)

エネルギー業界:LNG・原油輸送に制約発生

パナマ運河を通航する船舶の数が減少したことで、石油やLNGを運ぶ船にも大きな影響が出ています。2023年には、シェニエール・エナジーがアジア向けLNG輸送でパナマ運河の利用を避け、スエズ運河など他の航路を選ぶ動きも報告されました。この干ばつの影響で滞船が長期化していることが背景にあります。一方で、日本は米国から主にパナマ運河経由でLNGを調達してきましたが、輸送ルートの見直しやLNGのスワップ取引などの柔軟な対応により、エネルギー供給の安定を維持しています。その結果として、現時点では日本のエネルギー供給や価格への影響は限定的にとどまっています。安定的なエネルギー供給の実現に、企業の柔軟な対応が求められています。

出典:ロイター『シェニエール、アジアLNG輸出でパナマ運河利用せず 干ばつ影響 』(2023/07/11)

出典:経済産業省『令和5年度  エネルギー需給構造高度化対策調査等事業』p,4.(2024/03/31)

パナマ運河干ばつ問題の解決策

今後もパナマ運河で干ばつが発生する恐れがあり、その影響が懸念されています。この問題を解決するために、新しい貯水池の建設計画や、水を再利用する取り組みが進められています。

新たな貯水池の建設

リオ・インディオ川ダム建設プロジェクトは、パナマ運河の安定運用を目指し、20年前に提案された計画で、全長840メートル、高さ80.5メートルのダム建設を通じて閘門の淡水を確保するものです。このダムの貯水量は約12億5000万立方メートルに達する見込みで、乾期でも通航可能な船舶の数を1日あたり最大15隻増やすことが可能となります。ダム計画が承認された場合、竣工は2030年または2031年になると予測されています。そして、このダムは干ばつ対策として今後50年間で最も効果的な施策になると考えられています。しかし、この建設地の緑豊かな渓谷では、数百世帯が農業や漁業、牛の飼育をしながら生活しており、パナマ運河の運用を支えるための巨大な人造湖の建設により、水面下に沈む運命にあります。こうした計画には、避けられない犠牲も伴うことを忘れてはなりません。

出典:ロイター『アングル:気候変動直撃、パナマ運河庁が挑む16億ドル巨大ダム計画 』(2024/12/08)

水の再利用「クロスフィリング」

干ばつの影響によるパナマ運河の水不足が、国際貿易に大きな影響を及ぼしています。運河の閘門は、船を上下させるために水を使いますが、その水が足りなくなり、貿易ルートが混乱しているのです。こうした状況を受けて、パナマ運河当局は通航制限の強化を避けるために、水を節約するさまざまな取り組みを導入しています。その一例が「クロスフィリング」という方法で、1つの閘室から別の閘室へ水を移し再利用することで、1日あたり6隻の船舶分の水を節約しています。また、可能な場合には、1つの閘室に2隻の船舶を同時に通過させる「タンデム通過」という方法も採用しています。

出典:ロイター『アングル:水不足で通航制限のパナマ運河、飲料水供給との均衡も課題 』(2024/03/27)

まとめ:パナマ運河の干ばつ問題に立ち向かう企業への革新

パナマ運河は、世界貿易に欠かせない、大西洋と太平洋を結ぶ重要な航路です。しかし、現在「エルニーニョ現象」による干ばつが深刻な問題となっています。そして、この記録的な干ばつにより、パナマ運河の運用が制限され、物流、小売業、中小企業を含むサプライチェーン全体にわたってさまざまな課題が浮上しています。例えば、輸送の遅れや運送コストの増加が発生し、製品供給の遅れから消費者まで影響が広がる事態となっています。そのため、企業は輸送ルートの見直しや効率的な計画の導入が重要です。さらに、貯水池の建設や水再利用技術「クロスフィリング」の導入支援を通じて、干ばつによる影響を軽減し、パナマ運河の安定運用を支える革新的な取り組みが求められます。こうした対応により、持続可能な物流システムの構築を実現することが期待されています。

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