企業のサプライチェーンにおけるCO2排出量(scope3)の見える化が進んでいます。世界的にあらゆる面から脱炭素への流れが加速しており、中でもサプライチェーンの脱炭素化は重要です。しかし、サプライチェーンの脱炭素化は見えづらく、そのためサプライチェーン排出量を算定し、見える化することは非常に有効と言えます。
この記事では、サプライチェーン排出量算定の必要性や、見える化するメリットを国内での取り組み事例も含めて解説します。
INDEX
サプライチェーン排出量を減らしの脱炭素を目指す
脱炭素の必要性
脱炭素はなぜ推し進めなくてはならないのでしょうか。ここでは簡単に理由を解説します。産業革命以降、世界の気温は平均1度上昇したと言われています。それは、経済活動による化石エネルギー由来の温室効果ガス排出の増加により、地球の温暖化が加速しているからです。
IPCCの第6次評価報告書では、2050年には気温が約1.5度も上昇すると言われています。人間が今のままの経済活動を続けていけば、地球に住み続けることすら危うくなるでしょう。

サプライチェーンとは
サプライチェーンとは、日本語では「供給連鎖」と訳されます。サプライチェーンは企業の業種に関係なく、製品の原材料や部品の調達、そして生産管理、物流、販売・消費までの流れを、一貫したシステムとして捉えた考え方のことを指します。経済活動の根幹といってもいいでしょう。
サプライチェーン排出量についてとscope3の重要性
国際的な温室効果ガスの排出量の算定と報告の基準「GHGプロトコル」
「GHGプロトコル」とは正式には「Greenhouse Gas(GHG)」で、温室効果ガス排出量算定と報告の世界基準になります。1998年に「世界資源研究所(WRI)」と、CEO連合である「世界経済人会議(WBCSD)」が主導となって制定されました。
持続可能な社会を築くためにも国際的な普及を目指し、オープンでありながらも総括的なプロセスで基準開発がされました。「GHGプロトコル」ではサプライチェーン排出量を非常に重要視しています。
サプライチェーン排出量「Scope」とは
サプライチェーン排出量とは、「企業の事業活動におけるすべての温室効果ガス排出量」のことです。サプライチェーン排出量には「Scope」という捉え方があり、それぞれ「Scope1」「Scope2」「Scope3」とに分かれています。
サプライチェーンの排出量の計算式は以下の通りです。
- サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出
サプライチェーン排出量「Scope1、2」とは
- Scope1
事業者による直接のCO2排出量のことを指し、直接排出量とも呼ばれます。
- Scope2
他社から供給された電気や熱、蒸気の使用に伴うCO2排出量で、間接排出量とも呼ばれます。

サプライチェーン排出量「Scope3」は「Scope1、2」以外の間接排出
Scope3は、Scope1と2をのぞくサプライヤーから排出される間接的なCO2排出量のことを言います。自社が他社から購入した製品の製造時に排出される温室効果ガスや、自社の製品を消費者が使用したときに排出される温室効果ガスなどが相当します。
Scope3は、以下のように15のカテゴリに細かく分類されています。
Scope3カテゴリ | 該当する活動(例) | |
1 | 購入した製品・サービス | 原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達 |
2 | 資本財 | 生産設備の増設(複数年にわたり建設・製造されている場合には、建設・製造が終了した最終年に計上) |
3 | Scope1,2 に含まれない燃料及びエネルギー関連活動 | 調達している燃料の上流工程(採掘、精製等)調達している電力の上流工程(発電に使用する燃料の採掘、精製等) |
4 | 輸送、配送(上流) | 調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主) |
5 | 事業活動から出る廃棄物 廃棄物 | (有価のものは除く)の自社以外での輸送(※1)、処理 |
6 | 出張 | 従業員の出張 |
7 | 雇用者の通勤 | 従業員の通勤 |
8 | リース資産(上流) | 自社が賃借しているリース資産の稼働(算定・報告・公表制度では、Scope1,2 に計上するため、該当なしのケースが大半) |
9 | 輸送、配送(下流) | 出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売 |
10 | 販売した製品の加工 | 事業者による中間製品の加工 |
11 | 販売した製品の使用 | 使用者による製品の使用 |
12 | 販売した製品の廃棄 | 使用者による製品の廃棄時の輸送(※2)、処理 |
13 | リース資産(下流) | 自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働 |
14 | フランチャイズ | 自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1,2 に該当する活動 |
15 | 投資 | 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用 |
その他(任意) | 従業員や消費者の日常生活 |
※1 Scope3基準及び基本ガイドラインでは、輸送を任意算定対象としています。
※2 Scope3基準及び基本ガイドラインでは、輸送を算定対象外としていますが、算定頂いても構いません。
サプライチェーン排出量「Scope3」の重要性と算定方法
サプライチェーンにおけるCO2排出は、Scope3の15のカテゴリのどれかに該当しています。逆に言えば、Scope3の排出量がサプライチェーンのほとんどを占めていると言っても過言ではありません。製造業においては、ほぼ全てのカテゴリに関わってくるでしょう。
そのためサプライチェーン排出量におけるScope3の算定は非常に重要であり、排出量を算定し、可視化することで脱炭素を大きく促すことができます。
以下にScope3を算定する上で重要な、CO2排出量算定の基本式をお伝えします。
- 「活動量×排出原単位」
これをもとにそれぞれのカテゴリの内容が算定されます。

出典:環境省『グリーン・バリューチェーンプラットフォーム 排出量算定について』
サプライ チェーン排出量の見える化はなぜ必要?メリットを解説
企業の環境価値をアピールできる
サプライチェーン排出量を算定し可視化することは、自社内だけではなく社会に向けて、総合的かつ積極的に環境負荷の低減を行っていることをアピールすることになります。特に環境問題やSDGsに関して敏感な投資家や消費者に対しては、たいへん有効と言えます。
脱炭素への貢献がわかりやすい
サプライチェーンでのCO2排出量の見える化を行うことで、全体で自社がどれほど脱炭素化に貢献しているかをわかりやすく知ることを可能にします。
社内での意識共有に役立つとともに、取引先との価値観の共有、課題解決に向けた取り組みを行うことができます。企業として社会の新たなビジネスモデル開発向上にも役立ちます。
ESG投資への有利性
ESG投資への需要は年々高まっているのをご存じですか。環境ビジネスは投資家たちにとって、利益を生み出せる市場として拡大しています。
脱炭素は投資の世界でも重要な要素となっているため、今後もさらなる投資が見込まれます。そのためサプライチェーン排出量の可視化を図ることは、ESG投資に対しても非常に有利に働く可能性があります。
サプライ チェーン排出量の見える化が進む背景と企業事例
サプライチェーン排出量の国際的な可視化の背景
サプライチェーン排出量のScope3の占める割合の大きさを見ても、それを可視化することで見えてくる数字には重みがあります。
国際的に可視化することで、地球規模で脱炭素への取り組みがわかり、脱炭素への動きがさらに普及します。そのため海外の企業はサプライチェーン排出量についての情報を積極的に開示しており、そのためのソリューションが次々開発されています。
日本企業の取組み事例を紹介
- 東洋紡株式会社
サプライチェーン排出量の情報を投資家やステークホルダーのニーズに応え、しっかりと開示することで社会的理解を高める努力を開始。サプライチェーン排出量のターゲットと目標を定めることでCO2削減に努めています。
- 株式会社ファンケル
2030年長期事業戦略をたて、エネルギーを大量に使用しているサプライチェーンや製品・サービスの排出量を把握する努力を開始。サプライチェーン排出量の情報を開示することで、特に投資家への投資資料への根拠を高めています。
まとめ:サプライチェーン排出量を抑え、脱炭素化で未来の企業として躍進を!
サプライチェーン排出量のなかでもscope3の重要性や算定の必要性、そして見える化することで得られるメリットを解説しました。企業におけるサプライチェーンの脱炭素化はますます重要性を増しています。今後は企業の取引やビジネスモデルとしても、サプライチェーン排出量(scope3)への取り組みは必須になるでしょう。
サプライチェーン排出量の算定を行い、見える化することでより環境価値の高い企業として躍進してみませんか。