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再生可能エネルギー拡充において注目される「重力蓄電」とは

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再生可能エネルギー拡充において注目される「重力蓄電」とは

地球環境問題が深刻化する中、「脱炭素社会」を目指し、世界中で再生可能エネルギーへのシフトチェンジが加速しています。それに伴い、地球上で物体が地面に引き寄せられる力である「重力」を使って蓄電をする「重力蓄電」が大規模蓄電の新技術として注目されています。

再生可能エネルギーは、自然の力を利用して発電をするものなので、供給の不安定さがつきまといます。蓄電システムは、再生可能エネルギーと同時に取り入れることにより、不安定な電力供給を補う調整役として期待されています。

今回ご紹介する「重力蓄電」は、これからの再生エネルギー時代に重要な役割を果たす存在になるのでしょうか。

INDEX

再生可能エネルギーの調整役を担う蓄電システム

令和3年10月に第6次エネルギー基本計画が閣議決定されました。2030年に向けて、再生可能エネルギーの主電源化を徹底していく方針となり、日本はこれまで以上に再生可能エネルギーの拡充が進むことが予想されます。再生可能エネルギー拡充に伴い、重要視されてくるのが、エネルギーの調整役を担う蓄電システムです。ここでは、日本の再生可能エネルギーと蓄電システムの現状についてご紹介します。

出典:経済産業省『第6次エネルギー基本計画が閣議決定されました』(2021/10/22) 

再生可能エネルギーによる電力供給の不安定さ

再生可能エネルギーは、太陽光、水力、地熱、風力など、ほぼ無限に自然の中から手に入れられる持続可能なエネルギーです。石油・石炭・天然ガスといった化石燃料由来のエネルギーと比較して、温室効果ガスを排出せず、日本にとっては燃料を海外に依存しなくてもよいなどのメリットがあります。

一方で、解決していくべき課題もあります。その一つに「電力供給の不安定さ」があげられます。太陽光発電や風力発電は天候に左右されることが多く、出力が不安定になります。晴天・強風の日は電力が余り、雨天・無風の日には電力が不足してしまいやすくなるのです。そこで必要となってくるのが、不足分の電力を補い、余剰分の電力をストックするといった電力の調整役を担う「蓄電池」なのです。

現在主流の蓄電システム

第6次エネルギー基本計画*の内容には、再生可能エネルギーの普及と共に、蓄電池の普及に向けた取り組みについても触れられており、市場の整備は急務となります。現在の日本における再生可能エネルギー併設用蓄電システムの主流は、NAS電池、RF電池、リチウムイオン電池などですが、これらの電池の課題として、設備費が高いことや、EPC(Engineering Procurement Construction)費用が高いことが挙げられます。

これまでのエネルギー政策上の蓄電システムに関する施策を見ると、コストの低減化を図ったり、補助事業を通して導入支援をしたりと、蓄電が重要視されてきていることがわかります。そんな中、世界ではこれらの課題を補填できる可能性を持つローテク技術を使った蓄電システム「重力蓄電」が注目されています。

*第6次エネルギー基本計画:2021年10月に閣議決定された、エネルギー需給に関する中長期的な基本方針や政策のこと。これまでの蓄電システム関連施策

出典:経済産業省『蓄電システムをめぐる現状認識』(2020年11月19日)

出典:経済産業省『第6次エネルギー基本計画』(令和3年9月)

コストパフォーマンスもよい?注目されるローテクな重力蓄電システム

日本ではなかなか普及に至っていない蓄電システムの導入ですが、世界ではローテクな蓄電方法が注目を浴びています。それが重力蓄電システムです。

重力蓄電の原理とは?

重力蓄電とは、いったいどのような蓄電システムなのでしょうか。仕組みやメリット、デメリットについてご紹介していきます。

揚水式水力発電から学ぶ重力蓄電の仕組み

重力蓄電の技術は、あまった電気を利用する「揚水式水力発電」の技術が応用されたものです。揚水式水力発電は位置エネルギーを利用して発電をします。大規模発電と相性が良く、組み合わせて利用されます。

低い位置にある水を高い位置に汲み上げておき、汲み上げた水を落として得られるエネルギーによって発電(放電)を行います。例えば、太陽光発電と組み合わせる場合、晴れた日の夜に、太陽光発電で余った電気でポンプを動かして上にある池に水を汲み上げておき、日照不足の日や電気が不足しているときに、汲み上げておいた水を下池に落として発電(放電)します。揚水式水力発電は調整力を持っていることが魅力です。

出典:パワーアカデミー『電気工学を知る』

この考え方を応用したものが重力蓄電です。揚水式水力発電には、基本的に郊外の自然を切り開く必要があり、環境破壊に繋がるデメリットを持っています。しかし、揚水式水力発電の魅力は「位置エネルギー」を利用することであり、物が高い場所にあることで蓄えられるエネルギーを使うことができればよいのです。水資源に頼らなくてもよいのではないかという発想から重力蓄電の技術は生まれました。

重力蓄電のメリット

重力蓄電のメリットをご紹介いたします。まずは「ローテク」と言われるくらいなので、構造はシンプルで汎用性が高いことが挙げられます。場所さえあればどこでも設置することができ、工夫次第で環境負荷が少なく、コストも低く抑えられます。なによりも、これからの主電力となりうる再生可能エネルギーの電力が安定供給されるようになるというのが最大のメリットです。

重力蓄電のデメリット

重力蓄電のデメリットをご紹介します。重力蓄電は、位置エネルギーを利用するため、高さが高い設備、または、地下に深い設備を設置しなければなりません。高い建築物は強風などに煽られる可能性があります。また、地下に設備を作る場合も、地盤の強さも必要になってくるでしょう。

世界の重力蓄電設備と日本の展望

現在、世界のあらゆる場所で重力蓄電が注目され、設備の建設が進んでいます。ここでは、実際に世界で設置が進んでいる重力蓄電設備をご紹介していきます。

(1)タワー型重力蓄電システム(スイス:Energy Vault社)

Energy Vault社は2020年7月に、重力蓄電システムのデモンストレーション用のユニットを完成させました。ユニットはタワー型で、屋上にクレーンが置かれているのが特徴です。クレーンでコンクリートブロックを積み上げていくことで充電し、高い位置に置いておくことで蓄電、下に落とすときに発電(放電)をします。

積み上げられるブロックは高さ60メートルほどになります。コンクリートブロックは、破棄された素材をリサイクルして使用しているので、環境負荷が少ないうえ、低コストで設置できます。クレーンの管理はエネルギー貯蔵や発電(放電)、天候などを加味し、独自のソフトウェアが完全自動調整をします。

出典:Energy Vault『PHOTO GALLERY』

(2)倉庫型重力蓄電システム(アメリカ:Energy Vault社)

2022年半ばにアメリカでも500MWhの倉庫型重力蓄電システムが稼働予定です。廃材を利用したコンクリートブロックを使用するのはタワー型と同様です。倉庫型の場合は、充電時にブロックが倉庫内の上の階に並べられていき、高い位置に置いておくことで蓄電、下に落とすと発電(放電)となります。倉庫型は、タワー型よりも4割低く建設されます。工期期間は約半年で、短期間で設置できることがわかります。

出典:Energy Vault『ENERGY VAULT ANNOUNCES APPOINTMENTS TO ITS BOARD OF DIRECTORS AND FORMATION OF NEW STRATEGIC ADVISORY BOARD』

日本ではどう活かす?

諸外国では2019年以降、重力蓄電設備が急速に建設されていますが、日本では重力蓄電の技術を活かせるのでしょうか。

現状では、日本は地震や台風などがたくさんある災害大国なので、高低差が必要な重力蓄電システムを導入するにはまだまだ課題があるように思います。しかし、日本の国土だからこそ活かせる技術を駆使した重力蓄電の研究がされるかもしれません。

もとより、大規模な蓄電システムを導入するには、それを最大限に使えるように、有り余るほどの再生可能エネルギー設備が必要です。日本はそこから着手すべきなのかもしれません。

まとめ:重力充電を理解して再エネ化に貢献!

再生可能エネルギーの拡充に伴い、世界中で注目されている重力蓄電についてご紹介しました。重力蓄電は、工夫次第では環境への負荷が少ない設計をすることができ、位置エネルギー自体は劣化することもないので、サステナブルな蓄電技術のひとつと言えます。

日本でもこれから再生可能エネルギーの主電源化が進み、電気は「貯めて使う」という考え方にシフトチェンジしていきます。企業でも、重力蓄電の考え方を切り口に、日本の土地にあった蓄電システムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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