環境関連事業のための資金調達である「グリーンボンド」とは?企業の事例も紹介
- 2022年06月15日
- SDGs・ESG
グリーンボンドは、資金確保あるいはESG投資の手段として、今世界で注目を集めており、市場は急拡大しています。地球温暖化による気候変動やSDGsに対し世界の関心が非常に高まっています。再生可能エネルギーの導入等のグリーンプロジェクトで資金調達を計画する企業と、ESG投資で地球環境の改善に貢献する投資家の双方にとって、グリーンボンドは多くのメリットがあります。グリーンボンドについて、そのしくみや、関連する政策、企業の発行事例をあげて解説いたします。
目次
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グリーンボンドとは、脱炭素社会における資金確保の手段
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グリーンボンドに関する国内政策
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グリーンボンドを活用した企業の事例
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まとめ:グリーンボンドを活用して地球環境問題の解決に貢献しよう
1. グリーンボンドとは、脱炭素社会における資金確保の手段
グリーンボンドとは、グリーンプロジェクトに関する資金調達のために発行する債券です。グリーンプロジェクトを推進する企業や地方自治体が、発行主体となります。例えば、再エネ設備を導入する資金を、グリーンボンドの発行で調達する等があげられます。機関投資家、運用機関はESG投資の一環として、グリーンボンドに資金を投入します。
出典:グリーンボンドとは | グリーンボンド発行促進プラットフォーム
出典:グリーンファイナンスポータル『国内企業等によるグリーンボンド等の発行実績』
グリーンボンドのしくみ
グリーンボンドを発行するためには、社債や地方債の発行手続きに加え、追加的な手続きが必要とされます。グリーンプロジェクトの評価や、選定プロセスの検討、環境改善効果の算定、レポーティング等です。グリーンボンドに関する資金はグリーンプロジェクトに限定されています。調達された資金はその使途について確実に追跡管理され、発行後のレポーティングにより透明性が確保されます。
グリーンボンドは、下記の関係者による発行プロセスがあります。
・発行体
グリーンプロジェクトを実施するための原資を調達する一般事業者。また、グリーンプロジェクトに対する投融資の原資を調達する金融機関。グリーンプロジェクト関連の原資を調達する地方自治体等。
・投資家
ESG投資を行うために、グリーンボンドに対し投資を行う投資家や、ESG投資の運用を受託する運用機関。
・アレンジャー
グリーンボンドの発行条件を提案し、引き受け、販売等を行う証券会社等。
・外部レビュー機関
資金の適切性や環境改善効果等を評価する監査法人や認証機関。
グリーンボンドは発行体と投資家の双方にメリット
グリーンボンドは、地球環境改善に貢献する点と、その推進により社会からの支持を獲得する点において、発行体及び投資家双方にメリットがあります。
・発行のメリット
グリーンプロジェクト推進への積極性が社外へのアピールになり、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の開示にも有用となります。また、社内へはリスクマネジメント及びガバナンスの体制整備に役立てることができます。さらに、資金調達の面では、プロジェクトのキャッシュフローや償還等の事業性をアピールすることで、好条件での調達の可能性も期待できます。
・投資のメリット
ESG投資の一環として、社内外にアピールできるとともに、環境面で持続可能な社会の形成に貢献できます。再生可能エネルギー等の事業は、世界が温室効果ガスの削減に取り組む中で大きな投資需要が見込めます。また、オルタナティブ投資として分散によるリスクの低減を図ることが可能です。
出典:環境省 グリーンボンド発行促進プラットフォーム『グリーンボンドとは』
世界で急拡大!グリーンボンドで投資を呼び込む
2020年は世界で2699億ドル約29兆円ものグリーンボンドが発行されました。2021年は50兆円を超えるとの予測もあり、市場は急拡大しています。ESG投資の波の中で、グリーンボンドへの注目度は世界的に高まっているのです。
出典:環境省「グリーンファイナンスポータル『市場普及状況(国内・海外) | 発行データ』」
そんな中、グリーンウォッシュと言われる環境投資を装った発行が散見されるようになり、各国、地域ではグリーンボンドについて原則やガイドラインを設け、外部評価や第三者機関による精査が取り入れられています。EUはグリーンボンドについて、最も厳しい基準を設けました。
ロンドン市場は専用情報プラットフォームを設け、ルクセンブルクや香港では専用市場を開設しました。グリーンウォッシュ債券が市場に出回ることを防止するとともに、グリーンボンドへの投資を積極的に呼び込んでいます。
出典:各国・地域のグリーンボンドガイドラインの等 - グリーンボンド発行 ..
また、ICMA国際資本市場協会は、パリ協定を踏まえた移行(トランジション)やサスティナビリティに関する資金調達にあたり、ガイダンスを発行しました。発行体のトランジション戦略とガバナンスや、グリーンプロジェクトの実施の透明性等、4つの観点から提言を行っています。.
出典:環境省「グリーンファイナンスポータル『ICMAクライメート・トランジションファイナンス・ ハンドブックの概要』」
日本企業のグリーンボンド発行実績
日本では、環境省がグリーンボンドプラットフォームを開設し、グリーンボンド推進への取り組みがされています。2020年の発行額は1兆170億円でしたが、グリーンボンドを発行した企業の株価が好調との見方もあり、今後の発行額の拡大に期待が寄せられています。
出典:環境省「グリーンファイナンスポータル『市場普及状況(国内・海外) | 発行データ』」
出典:環境省 グリーンボンド発行促進プラットフォーム『グリーンボンドとは』
2. グリーンボンドに関する国内政策
発行者や投資家及び市場関係者が、グリーンボンドに関する事業を具体的に進めていく際に参考となり、かつ国内でのグリーンボンド促進を図るものとして、以下の政策が挙げられます。
・グリーンボンドガイドラインとグリーンボンドプラットフォーム
環境省は、2017年グリーンボンドガイドラインを策定し、発行モデル創出事業にてグリーンボンドの普及を図りました。現在2020年度版のガイドラインが公表されています。
環境省が開設したグリーンファイナンスポータルは、グリーンボンド発行のスキームや発行リスト等の情報提供を行っています。また、株式会社東京証券取引所はグリーンボンド・ソーシャルボンドのプラットフォームを開設し、グリーンボンドに関する情報を、発行体が任意に掲載できるようにしました。
出典:環境省「グリーンファイナンスポータル『発行リスト(国内)』」
出典:東京証券取引所『グリーンボンド及びソーシャルボンドに関する情報』
・グリーンボンド等発行促進体制整備支援事業(補助事業)
グリーンボンド等発行促進体制整備支援事業(補助事業)は、グリーンボンドを発行しようとする企業や自治体に発行支援を行う者に費用を補助する事業です。発行支援によってグリーンボンドの発行を促進する目的となっています。
同事業は、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。調達資金の半分以上または事業件数の半分以上が、脱炭素化に資する事業であること、脱炭素効果、地域活性化効果が高い事業であることです。この補助事業にあたっては、あらかじめグリーンボンド等発行支援社登録制度に登録を行うこととされています。
出典:環境省「グリーンボンド発行促進プラットフォーム『グリーンボンド等発行促進体制整備支援事業(補助事業)』」
3. グリーンボンドを活用した企業の事例
環境省のグリーンファイナンスポータルには、グリーンボンドを発行した企業及び事業内容等が発行リストとして提供されています。いくつかの事例を紹介しましょう。
・旭化成株式会社(以下、旭化成)
旭化成は2020年6月、所有する水力発電所の改修工事費用について100億円のグリーンボンドを発行しました。同社は宮崎県の延岡・日向地区に水力発電所、火力発電所、バイオマス発電所を稼働し、工場群に電力を供給しています。その中で9ヵ所ある水力発電所は竣工後70年以上が経過していることから、設備の更新に至りました。
この大規模改修工事により、発電機の高効率化がはかられ、年間1.1万トンのCO2排出削減を実現できることになりました。長期に渡ってクリーンな再生可能エネルギーを安定的に供給することで、同社の中期経営計画における「サステナビリティ」への取り組みを推進し、地球環境改善に貢献しています。同社のグリーンボンドは、第三者機関であるSustainalyticsからセカンドパーティ・オピニオンを取得し、適合性の確認を行っています。
出典:発行リスト(国内) | 発行データ | ボンド | グリーンファイナンスポータル
出典:旭化成株式会社『旭化成グリーンボンド発行に関するお知らせ | 2020年度 - Asahi Kasei』(2020.5)
・株式会社地方グリーンプロジェクト支援研究所(以下、LGP Lab)(旧北陸グリーンボンド株式会社)
LGP Labは地方自治体が抱える環境問題等を官民連携の形で企画立案支援を行っています。北陸3県の自治体が所有する既存照明設備をLED化する事業が、2017年度のグリーンボンド発行モデル創出事業に採択されました。
自治体が省エネ事業として、小中学校の照明設備のLED化にかかる包括的業務を地元企業に委託するという、ESCO事業の事例です。自治体はLED化で削減した光熱費の中からサービス料を10年間負担しましたが、一方で、環境対策と地域経済の発展への貢献を果たしました。本グリーンボンドは、株式会社格付投資情報センターによって、適合性確認がなされ、発行前報告書が交付されました。
事業者はグリーンボンドを発行することで、金融機関の与信が得られないケースでも資金調達が可能となります。これは中小企業も取り組みやすい事業モデルと言えるでしょう。
出典:環境省『先行事例(グリーンボンド発行モデル)グリーンファイナンスポータル』
出典:LGP Lab - 株式会社地方グリーンプロジェクト支援研究所(旧:北陸グリーンボンド)
・高砂熱学工業株式会社(以下高砂熱学工業)
高砂熱学工業は2023年の創立100周年に向け、「GReeN PRIDE 100」を長期経営構想として策定し、その中で地球環境に貢献する「環境ソリューションプロフェッショナル」をビジョンとして掲げています。
2019年つくばみらい市にイノベーションセンターを建設するために、50億円のグリーンボンドを発行しました。設計のコンセプトとして、「地球環境負荷低減と知的生産性向上を両立したサスティナブル建築」を掲げています。蓄電池を備えた太陽光発電や、バイオマス発電で電力を給電し、空調設備等の高効率化で、ZEB※(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を目指したオフィス環境を作り出しました。
国内の事業会社としては初めてのZEBによる建築物の建設資金、設備資金をグリーンボンドで賄った事例です。同社のグリーンボンドはJCR 株式会社日本格付研究所の最上位評価を取得しています。
出典:高砂熱学工業「『高砂熱学グリーンボンド』の発行条件決定に関するお知らせ」(2019.7)
※ZEB:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/support/index02.html
4. まとめ:グリーンボンドを活用して地球境問題の解決に貢献しよう
資金調達の際にグリーンボンドを発行することによって、企業の環境改善への取り組みが評価されやすくなり、社会的な支持の獲得につながります。投資面からは、グリーンボンドに投資することで、環境改善への貢献やオルタナティブ投資によるリスク低減のメリットが大きいでしょう。
グリーンプロジェクトに関する計画であれば、金融機関からの投融資が得られないケースでも、グリーンボンドを活用することで、比較的好条件での資金調達が可能になった事例もあります。建物のZEB化や省エネ化、再生可能エネルギーの導入等は、地球環境の改善に貢献するものです。企業としてこのような計画がある場合は、グリーンボンドの発行を検討してみてはいかがでしょうか。