EUDR(EU森林破壊規制)の概要と課題:企業が知るべきポイント

EUDR(EU森林破壊規制)は、森林破壊に関与しない製品の流通を目指し、環境保護と持続可能な未来に貢献する規制です。世界的に注目される一方で、発展途上国では農家への影響や歴史的背景から反対意見もあります。

この記事では、EUDRの概要や森林破壊フリー製品、デューデリジェンス(DD)の重要性、規制の内容、さらには課題や問題点を分かりやすく解説します。

目次

  1. 森林破壊と持続可能な「森林破壊フリー製品」

  2. デューデリジェンス(DD)の重要性

  3. EUDR(EU森林破壊規制)とは?

  4. EUDRの具体的な内容

  5. EUDRの発展途上国への影響と解決のヒント

  6. EUDRを理解し、環境保護と経済発展の両立を!

1. 森林破壊と持続可能な「森林破壊フリー製品」

森林破壊は、世界中で急速に拡大しており、気候変動や生物多様性の喪失など深刻な問題を引き起こしています。このような背景から森林破壊フリー製品の需要性が高まっています。

森林破壊とは

森林破壊とは、人為的かどうかを問わずに森林を農業利用に転換することです。近年、世界の森林は急速に減少しており、毎年330万ヘクタールの森林が失われています。これは、1分間に東京ドーム2つ分の森林が消えている計算になります。この森林破壊が進むと、土地の劣化や砂漠化から気候変動、生物多様性にまで悪い影響を及ぼします。また、日本では、天然林の減少や未活用の国内森林資源、林業の衰退などの問題もあります。

出典:農林水産省「EUのEUDR(森林破壊フリー製品規則)の概要」p,7.(2024/05/29)

出典:日本財団ジャーナル「世界では1分間で東京ドーム2つ分の森林が失われている? 」(2024/02/20)

森林破壊フリー製品とは

森林破壊フリー製品とは、2020年12月31日以降、森林破壊されていない土地で生産された関連商品や製品のことです。特に、木材に関しては、森林破壊がされていないことの他に、森林劣化がないことも重要な要件となります。この森林劣化とは、無秩序な伐採によって樹木が減り、森林は保たれるものの炭素の蓄積量が減ってしまうことです。森林の持続可能な利用を回復するには、森林劣化の現状を正しく把握することが必要です。

出典:農林水産省「EUのEUDR(森林破壊フリー製品規則)の概要」p,7.8.(2024/05/29)

出典:国立研究開発法人 森林研究・整備機構「隠れた伐採も見逃さない -宇宙から森林劣化を監視する-」p,1.(2015/07/31)

2. デューデリジェンス(DD)の重要性

デューデリジェンス(DD)は、企業の信頼性向上やリスク管理に不可欠な要素で、正しく理解することで、企業の持続可能な運営が実現します。

デューデリジェンス(DD)とは

デューデリジェンス(DD)とは、人権を尊重するために、企業が人権侵害のリスクを特定・防止する手段です。2011年に国連が「ビジネスと人権に関する指導原則」を発表し、企業にこのプロセスの実施が求められました。その後、欧州を中心にデューデリジェンスの実施を義務づける法規制が作られ、この流れは現在も続いています。

さらに、2023年6月に経済協力開発機構(OECD)が、「多国籍企業行動指針」を改定し、環境に対する負の影響についてもリスクベースのデューデリジェンスを実施するべきとしています。その具体的な例として①気候変動②生物多様性の損失③陸・海洋及び淡水の生態系の劣化④森林減少⑤大気、水、土壌の汚染⑥有害物質を含む廃棄物の不適切管理などがあります。

出典:環境省「環境デュー・ディリジェンス関連の 国際規範、海外法規制、ガイダンスの概要」p,1.(2024/03/21)

デューデリジェンス(DD)の重要性

環境への負の影響が、健康・安全・労働者や地域社会、生計手段や土地所有権などに影響を及ぼすため、環境デューデリジェンスの重要性は国際的にも高まっています。そして、欧州では「企業サステナビリティ・デュー・デリジェンス指令案」により、EU内外の大企業に対してバリューチェーン全体での環境・人権デューデリジェンスの実施を義務付ける動きがあります。また、日本企業においても、将来的な義務化に備えて、環境への負の影響に対処するプロセスを構築し、競争力を維持・確保する必要があります。

出典:環境省「環境デュー・ディリジェンスに関する取組事例集」p,1.(2024/03)

3. EUDR(EU森林破壊規制)とは?

環境保護と持続可能な未来に貢献する取り組みとして、世界でも高い関心を集めているEUDRについてご紹介します。

EUDRとは

EUDRとは、EU森林破壊規制(EU Deforestation Regulation)のことで、森林破壊フリー製品に関する規則です。この規則は、EUで2023年6月29日に発効されたもので、2024年12月30日から適用開始となりました。また、中小事業者においては、2025年6月30日から適用開始となります。そして、事業者はデューデリジェンスの結果、対象製品が森林破壊フリー製品であることを証明できない場合、その製品をEU内で流通させることができません。

出典:農林水産省「EUのEUDR(森林破壊フリー製品規則)の概要」p,2.3.(2024/05/29)

EUDR設立の背景

森林破壊には、さまざまな問題が含まれています。例えば、サワクラやアマゾンの熱帯雨林破壊や米国での国有天然林の伐採規制、サバ州での丸太輸出規制による第一次ウッドショック、アジア通貨危機後のインドネシアなどの違法伐採などがあります。

そして、1980年代から1990年代にかけて、熱帯林の持続可能な管理について世界の関心は高まりましたが、結果的に国際的な合意には至りませんでした。しかし、2000年代以降、世界の木材輸入国が、違法伐採による木材に対する規制の導入を開始しました。EUは、2010年に「EU木材規制(EUTR)」を導入し、輸入事業者に対して違法伐採由来でないことの確認(デューデリジェンス)を求めています。そして、2023年にEU森林破壊規制が設立されました。

出典:IGES「EU森林破壊規則(EU Deforestation Regulation)解説」p,2.(2024/06/13 )

4. EUDRの具体的な内容

ここでは、EUDRの具体的な内容について見ていきます。

対象製品

EUDRの対象製品は、EUDRにおいて特に注目される製品群(HS-コード77品目)に該当した製品が当てはまります。具体的には、以下の製品に適用されます。

・木材とその製品(木炭や書籍なども含む)

・牛とその製品(牛肉や革製品など)

・カカオとその製品(チョコレートなど)

・コーヒーとその製品

・天然ゴムとその製品(タイヤなど)

・パーム油とその製品

・大豆とその製品(大豆絞り粕など)

出典:IGES「EU森林破壊規則(EU Deforestation Regulation)解説」p,7.(2024/06/13)

対象となる行為と禁止対象

EUDRの対象となる行為は、EU域内市場での販売・流通やEU域外への輸出です。そして、禁止対象には、違法に伐採された対象製品や森林減少・劣化された土地から生産された製品が含まれます。EUDRでは、合法であっても2020年12月31日以降に森林減少や劣化が起きた土地から生産された製品は禁止対象となります。なお、EUDRでは、森林減少は森林から農地への転換、森林劣化は天然林から人工林への転換などと定義されています。

出典:IGES「EU森林破壊規則(EU Deforestation Regulation)解説」p,7.8.(2024/06/13 )

政府への報告義務

EUDRでは、EU域内市場での販売・流通やEU域外の輸出を行う場合、政府に報告することが義務付けられています。

・情報提供義務:EUの情報システムに対し、産品の生産地位置情報を含むデューデリジェンス声明を提出する義務があります。

・税関の確認:通関手続きの際に、情報システムへの情報提供がなされているかを税関が確認します。

・抽出検査:各国の管轄官庁は、提供されたデータを基にサンプル検査を行います。

出典:IGES「EU森林破壊規則(EU Deforestation Regulation)解説」p,8.(2024/06/13 )

生産国のリスク評価

EUは、各国を低リスク、標準リスク、高リスクの3つに分類し、2024年12月に公表する予定です。そして、各国の管轄官庁には、それぞれ輸入の1%、3%、9%に対して監査を行うことが求められます。しかし、生産国のリスク評価に対しては生産国からの反発が大きく、当面は日本を含む全ての国を標準リスクとしてスタートさせる予定です。

出典:IGES「EU森林破壊規則(EU Deforestation Regulation)解説」p,9.(2024/06/13 )

5. EUDRの発展途上国への影響と解決のヒント

大規模農園の原材料輸出を支援するルール

EUDRは、生産国の商業プランテーション(大規模で商業目的のために設立された農園)による原材料輸出を支援するため、有利なルールを設けています。例えば、商業プランテーションは、サプライチェーンが単純で生産地の正確な位置データの取得がしやすいため、地理的情報の確認が容易です。

また、政府の許可を受けて運営しているため、合法性の証明も簡単になります。このように、商業プランテーションは規則に準拠するのが容易であり、結果的に有利な立場に立つことができます。

出典:IGES「EU森林破壊規則(EU Deforestation Regulation)解説」p,17.(2024/06/13 )

途上国の植民地時代の二重経済体制

多くの途上国は、植民地時代に欧米資本のプランテーションで「二重経済」を経験しました。パーム油やカカオなどが植民地を支配する国に向けて栽培され、地域住民は低賃金労働者として働き、その一方で、地域住民の農業決済は地元で完結していました。独立後、この二重経済を解消するため、小規模農家が商品作物を栽培して海外市場から利益を得ることで、貧富の格差を縮小し、合板製造などの加工産業を育成して国内で付加価値を生み出す努力をしました。しかし、EUDRは、再び欧州の支配力を強化する結果となる可能性があり、新植民地主義と批判されることがあります。

出典:IGES「EU森林破壊規則(EU Deforestation Regulation)解説」p,18.(2024/06/13 )

小規模農家の排除

EUDRは、小規模生産者を排除する状況が生まれています。例えば、主に小規模農家が生産しているエチオピア産のコーヒーは、EUからの注文が減少しており、インドネシアの小規模家具産業はEU市場を諦め、インドなどで「公正で持続可能な取引慣行」を優先しています。

そして、トルコはゴムの調達先をインドネシアからコートジボワールに変更しました。そのため、EUDRに関わる企業などは小規模農家のリストを提出する必要があり、リスト内の全ての農家は全て環境に影響を与えないことが求められます。

出典:IGES「EU森林破壊規則(EU Deforestation Regulation)解説」p,19.(2024/06/13)

EUDRへの反対

多くの途上国が、EUDRの実施に懸念を示しています。ラテンアメリカやカリブ海諸国、アフリカ、アジアなどの17ヵ国はEUに書簡を送り、インドネシアやマレーシア、ブラジルは世界貿易機関(WTO)に共同書簡を提出しました。そして、インドネシアとマレーシアでは、EUのパレスチナ・イスラエル戦争への態度に反発があり、EUの信頼度が低下しています。

また、米国ではパルプや製紙工場の木材繊維の42%が追跡不可能な木材源のため、EUDRの遵守が難しい状況です。さらに、米国の農家は、森林伐採地でないことを証明する証明書がなければ、EUに大豆を販売できず多額の罰金を科せられるリスクがあり、米国の民主党と共和党はEUDRに反対しています。

出典:IGES「EU森林破壊規則(EU Deforestation Regulation)解説」p,20.21.(2024/06/13)

6. EUDRを理解し、環境保護と経済発展の両立を!

EUDR(EU森林破壊規制)とは、EU内で販売される製品が森林破壊に関与していないことを保証するための規制です。製品が森林破壊フリー製品だということを証明できない場合、その製品はEU内で販売することができません。EUDRの対象製品は、特に注目されるHS-コード77品目に該当するもので、EU域内での販売・流通およびEU域外への輸出が規制対象となる行為となります。

違法に伐採された製品や、2020年12月31日以降に森林破壊・劣化した土地から生産された製品は禁止されています。EUDRは、環境保護を目的とした規制ですが、発展途上国を含む多くの国々が反対しています。その背景も理解した上で、企業は環境保護と持続可能な経営を目指すことが重要です。

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