企業のためのサステナビリティ開示と移行計画ガイド

近年、持続可能な社会の実現に向け、企業にはサステナビリティ情報の開示が強く求められています。多様な国際的フレームワークが登場する中、特に注目されているのが「サステナビリティ開示の移行計画」です。これは、脱炭素や持続可能な成長を目指す企業が、目標達成のための具体的な方針や取り組みを透明かつ明確に示すものです。

本記事では、サステナビリティ開示の中でも重要な移行計画について、その概要と策定時に押さえておくべきポイントを詳しく解説します。

 

目次

  1. サステナビリティ開示における移行計画とは

  2. 主な環境フレームワークと開示要件のポイント

  3. 企業が移行計画を策定する際の重要なポイント

  4. 移行計画に関する国内外の最新動向

  5. まとめ:移行計画を理解して、正確で透明性のある情報開示を目指そう!

1.サステナビリティ開示における移行計画とは?

まずは、サステナビリティ開示の移行計画について、その目的と概要を詳しく解説します。

(1)目的

サステナビリティ開示の移行計画は、企業がカーボンニュートラル目標の達成に向けた具体的な方針を明確に示すことが目的です。国際的に統一されたフレームワークは存在しないものの、TCFD提言やISSB基準を参考にした行動計画の策定と情報開示が求められています。

これにより、投資家は企業評価の重要な判断材料を得るだけでなく、企業が自社の価値を投資家等に訴求する重要な開示手段のひとつになっています。

出典:環境省「企業の脱炭素実現に向けた統合的な情報開示 (炭素中立・循環経済・自然再興)に関する勉強会 第1回 気候関連財務情報開示に関連する最新の国内外動向」p9

(2)概要

サステナビリティ開示の移行計画は、企業がカーボンニュートラルなどの持続可能な目標を達成するための戦略や実行方針を公開する取り組みです。この計画では、短期・中期・長期の目標に加え、その達成に必要な手段や投資計画を明確に示すことが求められます。

現在、移行計画開示に関する共通したフレームワークはありません。しかし、TCFD提言やIFRS、S2などの国際フレームワークを参考にすることが求められます。それを通じて、低炭素・脱炭素社会への移行と企業価値の創造をどのように両立させるかを明確に伝える必要があります。

出典:環境省「企業の脱炭素実現に向けた統合的な情報開示 (炭素中立・循環経済・自然再興)に関する勉強会 第1回 気候関連財務情報開示に関連する最新の国内外動向」p9

2..主な環境フレームワークと開示要件のポイント

移行計画開示に関する国際フレームワークにはいくつかの選択肢がありますが、その中でも特に重要なTCFD提言およびIFRS(ISSB)開示基準における開示要件について解説します。

(1)TCFD提言における移行計画の内容

TCFD提言は、企業に対して気候変動に関する取り組みや財務リスクなどの情報開示を推奨する国際的なフレームワークです。2021年10月に公表されたTCFDガイダンスでは、移行計画開示を「低炭素経済への移行をサポートする一連の目標や行動を示すもの」であり、「GHG(温室効果ガス)排出量の削減などを含む組織全体の事業戦略の一側面」と定義しています。

また、TCFD提言に基づいて情報を開示する場合、4つの柱「ガバナンス」「戦略」「リスクの管理」「指標と目標」に基づいて策定することが求められます。さらに、排出削減にコミットする企業、排出削減目標を掲げた国で活動する企業、投資家の期待に応える企業が計画策定の対象です。

出典:環境省「企業の脱炭素実現に向けた統合的な情報開示 (炭素中立・循環経済・自然再興)に関する勉強会 第1回 気候関連財務情報開示に関連する最新の国内外動向」p11

(2)IFRS(ISSB)開示基準における移行計画の内容

2023年10月にTCFDの役割がIFRS財団に引き継がれたことに伴い、IFRS(ISSB)によるサステナビリティ開示基準が注目されています。ISSBは2021年に設立された国際的なフレームワークで、2023年6月に「S1: サステナビリティ関連財務情報開示の一般要求事項」と「S2: 気候関連開示」を公開しました。

これらの基準は2024年1月から適用が開始されており、各国企業にはIFRS基準を基にした情報開示が求められる見通しです。さらに、ISSBは生物多様性や人的資本といったテーマにも取り組んでおり、気候変動以外の問題においても詳細な開示基準の策定が進むことが予想されています。

出典:環境省「企業の脱炭素実現に向けた統合的な情報開示 (炭素中立・循環経済・自然再興)に関する勉強会 第1回 気候関連財務情報開示に関連する最新の国内外動向」p12

3.企業が移行計画を策定する際の重要なポイント

ここでは、企業における移行計画策定のポイントを解説します。カーボンニュートラルや持続可能な目標達成に向けた具体的なステップや、重要な要素を押さえることが重要です。

(1)移行計画を策定すべき企業

日本で事業を行う企業は、移行計画の開示を検討する必要があります。ただし、業種や企業規模により、どの情報を優先して開示するかを考慮することが重要です。企業は、自社にとって最も影響のある気候変動関連のリスクや機会を特定し、これに基づいて適切な開示戦略を策定することが求められます。

(2)移行計画の策定時期(目安)

移行計画の策定は企業の事業戦略と密接に関連しているため、経営陣の積極的な関与が重要です。TCFD開示の初期段階から経営陣が参加し、移行計画の検討を進めることで段階的に開示内容を充実させていくことが求められます。

これにより、計画の実効性や透明性は向上し、企業の持続可能な成長に向けた信頼性のある情報提供を可能にします。

(3)移行計画策定の体制

企業内の複数部署や関連する顧客、調達先など、バリューチェーン全体を巻き込んだ体制で移行計画を策定することが求められます。

各部門や外部ステークホルダーとの意見交換を促進することで、実行可能かつ効果的な計画が策定され、企業全体として統一感のある移行戦略を実現することが可能です。これにより、企業の持続可能な成長と社会的責任を両立させることが期待されます。

(4)移行計画に記載すべき内容

移行計画には、TCFD提言に基づき「ガバナンス」「戦略」「指標と目標」「リスク管理」の4つの柱を軸にした情報開示が求められます。これらの項目は互いに関連しており、脱炭素に向けた具体的な事業戦略を明確に示すことが重要です。

また、そのために実施すべき措置や達成すべき目標を明示することで、企業の取り組みがより効果的かつ透明性のある情報の開示に繋がります。

(5)移行計画の開示方法

移行計画の開示は、従来の気候関連開示と独立させる必要はありません。既存の気候関連情報の中に移行計画に必要な要素が含まれていれば、それをもって移行計画として成立します。この方法により、企業は透明性が高く、また一貫性を持った情報開示を行うことができます。

出典:環境省「企業の脱炭素実現に向けた統合的な情報開示 (炭素中立・循環経済・自然再興)に関する勉強会 第1回 気候関連財務情報開示に関連する最新の国内外動向」p9

4.移行計画に関する国内外の最新動向

サステナビリティ開示における移行計画は、国際的なフレームワークとして多くの企業が取り組んでいます。特にTCFDやISSB基準に基づく開示が進み、国内外での取り組みが広がっています。ここでは、移行計画に関する国内外の最新の動向を紹介します。

(1)海外の取り組み

移行計画に関する海外の取り組みは以下の通りです。

  • 欧州(EU)

EUでは、2022年12月に企業のサステナビリティ情報開示を義務付ける「CSRD」が採択されました。この新しい規則は、ダブルマテリアリティ原則に基づいた情報開示を要求するとともに、第三者による保証義務も導入しています。

また、2024年5月にはEU理事会はサステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)を正式に採択しました。これにより、3年後から順次適用が開始され、EU域内での売上に応じてEU域外の企業も対象となります。そのため、各国は対応に向けた取り組みが必要です。

  • アメリカ

アメリカでは、サステナビリティ開示における移行計画の改善と標準化を目的として、米国証券取引委員会(SEC)が規則改正を提案しました。

この改正案では、重要な場合にスコープ3の開示が求められ、加えて第三者保証義務も導入されることが予定されています。これにより、企業の気候変動への移行に関する透明性がさらに強化されることが期待されています。

このように、欧米を中心に国際的にもサステナビリティ開示における移行計画への取り組みは活発に進んでいます。

 

出典:環境省「企業の脱炭素実現に向けた統合的な情報開示 (炭素中立・循環経済・自然再興)に関する勉強会 第1回 気候関連財務情報開示に関連する最新の国内外動向」p15

(2)国内の取り組み

国内では、2015年に採択されたパリ協定に基づき、2050年までのカーボンニュートラル達成に向けた国家戦略「GX(グリーントランスフォーメーション)」に取り組んでいます。現在、GX実行会議は長期的視点に立った「GXビジョン2040」を進めており、従来の化石燃料からクリーンエネルギーへの転換と、経済成長の両立を目指しています。

具体的な取り組み内容の一例は、以下の通りです。

  • DXによる電力需要増に対応するための省エネや再エネの拡大

  • 火力の脱炭素化に必要な投資の拡大

  • 技術、ビジネス、スケールの3つの要素を最大化したイノベーション創出

  • GX製品の価値評価、調達に向けた規制・制度的措置

  • 欧米の情勢も踏まえた現実的なトランジションの必要性

このように、国内においてもサステナビリティや脱炭素に向けた具体的かつ戦略的な取り組みが進んでおり、企業や社会全体での変革が求められています。

 

出典:環境省「企業の脱炭素実現に向けた統合的な情報開示 (炭素中立・循環経済・自然再興)に関する勉強会 第1回 気候関連財務情報開示に関連する最新の国内外動向」p8

5.まとめ:移行計画を理解して正確で透明性のある情報開示を目指そう!

今回は、サステナビリティ開示における移行計画の概要や策定ポイントについて解説しました。移行計画開示に関して共通のフレームワークはありませんが、現在ではTCFD提言やISSB基準を参考にした情報開示が求められる傾向にあります。

企業にとって、移行計画の策定と開示は持続可能な成長と社会的責任を果たす重要なステップです。最新の国際基準や国内の動向を踏まえ、透明で実行可能な計画を策定し、正確な情報開示を通じて投資家やステークホルダーとの信頼関係強化を目指してみてください。

 

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