CO2排出量年10万トン以上の企業に義務化された排出量取引|GX推進法の背景と未来


2026年度から、日本の企業環境に大きな変革をもたらす「排出量取引制度」が本格導入されます。この制度は、年間CO2排出量が10万トン以上の企業に適用され、温室効果ガス削減を強力に推進することを目的としています。本記事では、この制度の背景、仕組み、企業への影響、さらには対応策までを詳しく解説します。

目次

  1. GX推進法における排出量取引制度について

  2. CO2年10万トン以上の企業について

  3. CO2年10万トン以上の企業に求められる事項と注意点

  4. まとめ:排出量取引制度を理解し、カーボンニュートラルへの一歩を踏み出そう!

1.GX推進法と排出量取引制度とは?

2024年11月、政府はGX実現に向けて排出量取引制度を策定しました。これにより、企業活動におけるCO2の排出削減が本格的に推進されることが期待されています。まずは、GX推進法と排出量取引制度について解説します。

(1)GX推進法の概要

GX推進法は、政府がグリーントランスフォーメーション(GX)を加速し、温室効果ガス削減と経済成長の両立を目指して策定した政策です。以下の具体的な取り組みが特徴です:

  • 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略の策定。

  • 脱炭素成長型経済構造移行債の発行。

  • 化石燃料採取者への賦課金の徴収。

  • 特定事業者への排出枠割当てに係る負担金の徴収。

さらに、2024年11月には「排出量取引制度」の導入が正式に発表され、2026年度からの運用が予定されています。この法律は、企業や社会全体に温室効果ガス削減を求めるだけでなく、再生可能エネルギー普及や脱炭素技術への投資支援などを通じて関連分野の成長も後押ししています。

出典:GX実現に資する排出量取引制度の 検討の方向性 P10、P11

(2)排出量取引制度の概要

2026年度から始まる排出量取引制度は、一定以上のCO2排出を行う企業に、排出量に見合った排出枠の償却を義務付ける仕組みです。企業には削減努力が求められ、効率的な削減が推進されます。この制度は段階的に進化し、成長志向型カーボン・プライシングを取り入れています。また、業種の特性や移行時期を考慮した適切な排出枠の割り当てが予定されており、全量無償割当の可能性も検討されています。これにより、企業が削減目標に取り組みやすい環境を整えることを目指しています。

出典:GX実現に資する排出量取引制度の 検討の方向性 P10、P11

2.CO2年10万トン以上の企業について

排出量取引制度では、年間CO2排出量が10万トン以上の企業が対象とされています。ここでは、対象となる企業の定義や基準など、制度の概要について解説します。

(1)対象となる企業の定義や基準

排出量取引制度の対象企業は、年間CO2排出量が10万トン以上の法人です。これらの企業には、毎年度、排出実績に等しい排出枠を償却することが求められます。削減水準(排出枠の割当量)は、主要な産業分野ごとに業種特性を考慮し、生産量あたりの排出量基準(ベンチマーク)をもとに決定される予定です。また、過度な負担を避けるために、以下の4項目が考慮されます。

  1. 制度開始前の削減実績

  2. カーボンリーケージ(産業の海外流出)リスク。

  3. 削減効果が短期間では現れない研究開発投資の状況

  4. 設備の新設や増設、廃止

このように、多角的な視点で基準が設けられ、企業の柔軟な対応を可能にする仕組みとなっています。

出典:GX実現に資する排出量取引制度の 検討の方向性 P11、P12

(2)10万トン以上の排出量を持つ企業数の予測

排出量取引制度では、排出量が多い企業に対象を限定し、効率的な運用を目指します。この制度の発表時点で、CO2の直接排出量が年間10万トン以上の法人は、該当する企業は300~400社程度と見込まれています。

これは、日本の温室効果ガス排出量の約60%をカバーする規模です。対象範囲は、省エネ法や温室効果ガス排出抑制法(温対法)との整合性、およびEUや韓国など外国の制度規模を参考に設定されました。この基準により、事務手続きの効率化や行政コストの抑制を図りながら、効果的な削減が期待されています。

出典:GX実現に資する排出量取引制度の 検討の方向性 P11、P12

3.CO2年10万トン以上の企業に求められる事項と注意点

排出量取引制度の対象企業は、この制度に対応するために、その求められる事項と注意すべき点を理解することが必要です。ここでは、具体的なポイントを解説します。

(1)CO2年10万トン以上の企業に求められる考慮事項

排出量取引制度において、企業は以下の3項目を考慮する必要があります。

  1. プレッジ(自主目標と基準年度排出量)
    企業は2030年度および中間目標(2025年度)の排出削減目標を設定し、国内直接・間接排出に対する削減計画を立てます。目標の下限値は設けられておらず、各社が自主的に設定します。

  2. 実績報告
    排出量実績を算定し、第三者検証を受ける必要があります。また、目標達成状況や取引実績は「GXダッシュボード」と呼ばれる情報開示プラットフォームで公表され、情報の透明性が求められます。

  3. 取引実施
    排出量取引の対象は国内直接排出分です。ただし、設定した目標に未達の場合は、超過削減枠やカーボンクレジットの調達、または未達理由の説明が求められます。

 

出典:GXリーグ設⽴準備事務局「来年度から開始する GXリーグにおける排出量取引の考え⽅について③」P9

 

(2)対象企業が準備すべきことや注意点

排出量取引制度において、企業は償却義務を履行しなければなりません。義務を履行しない場合、調達不足分に応じた金銭の支払いを求められることになります。

このペナルティは、制度の実効性と公平性を確保するために設けられています。具体的な金額や支払い条件については今後確定される予定ですが、企業はこれに備える必要があります。万が一この義務を怠ると、予期せぬ費用が発生する可能性があるため、適切な排出枠の管理が重要です。

出典:GX実現に資する排出量取引制度の 検討の方向性 P12

4.まとめ:排出量取引制度を理解し、カーボンニュートラルへの一歩を踏み出そう!

排出量取引制度は、CO2年10万トン以上の企業にとって、カーボンニュートラル実現への重要な枠組みです。早期に準備を整え、削減目標の設定や市場での取引を戦略的に行うことで、環境意識の高い市場で競争力を向上させることができます。

制度の理解を深め、持続可能な成長を目指す取り組みを加速させましょう。カーボンニュートラルへの道を切り開く鍵は、今、企業がどれだけ迅速かつ戦略的に行動できるかにかかっています。

資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説