CSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)とは?企業が今知るべき持続可能性の新しい規範
- 2024年12月25日
- 環境問題
CSDDD(Corporate Sustainability Due Diligence Directive)は、企業が持続可能な成長を目指すために、人権侵害や環境保護に関するリスクに焦点を当てた国際的な指令です。この指令は、企業活動が環境や社会に与える影響を事前に特定し、リスクを回避または軽減する取り組みを求めるものです。
近年、企業に求められる責任は製品やサービスの提供に留まらず、持続可能な未来を形作るための行動にも拡大しています。CSDDDは、こうしたトレンドの中で、企業の価値と信頼性を高める鍵となる規範として注目を集めています。
目次
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CSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)とは何か
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CSDDDの主な内容
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CSDDDによる企業への影響
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CSDDD導入企業の事例
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まとめ:CSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)の理解を深め企業のステップアップを!
1. CSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)とは何か
まずはじめに、CSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)とは、どのようなものなのかをご紹介します。
CSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)とは
CSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)は、企業に対し自社および子会社の事業や取引先の活動が引き起こす、または関係する実際および潜在的な人権や環境への悪影響についてDD(デユー・ディリジェンス)を行い、その情報を公開を義務付けたものです。DD(デユー・ディリジェンス)とは、企業が人権を尊重する責任を明確にし、人権侵害のリスクを見つけて防ぐ方法のことです。そして、企業は、パリ協定の1.5℃目標や欧州の2050年気候中立および2030年目標に合わせた移行計画を策定し、それを自社のビジネスモデルや戦略に整合することが求められています。
出典:環境省『環境デュー・ディリジェンス関連の 国際規範、海外法規制、ガイダンスの概要』p,4.7.(2024/03/21)
CSDDD発足の背景
2011年、国連が「ビジネスと人権に関する指導原則」を発表し、人権尊重を企業の責任として明確にしました。それ以降、企業に対して人権侵害リスクを特定し防止するためのDD(デユー・ディリジェンス)を実施する法規制が欧州を中心に制定され始めました。例えば、2018年3月には、欧州委員会がサステナブルファイナンス行動計画を策定し、企業の取締役会にDD実施を含むサステナビリティ戦略の策定と開示を求めました。
そして、2023年6月には、経済協力開発機構(OECD)が12年ぶりに「多国籍企業行動指針」を改訂し、環境への悪影響についてもリスクベースのDDを実施するべきであることを提言しました。その後、2024年3月19日に欧州議会の法務委員会はEU理事会で合意された指令の修正案を承認しています。
出典:環境省『環境デュー・ディリジェンス関連の 国際規範、海外法規制、ガイダンスの概要』p,4.7.(2024/03/21)
2. CSDDDの内容を解説:対象企業、分野、基準とは?
ここでは、CSDDDの内容について詳しく見ていきます。
対象となる企業
対象となる企業は、EU域内企業とEU域外企業とで異なります。EU域内企業の場合、次の条件に該当する企業が対象です。①平均従業員数が1000人を超え、直近の会計年度において全世界の純売上高が4500万ユーロを超える企業、②単独では①の条件に達していないが、グループ全体で①の条件に達している企業の最終親会社、③独立した第三者企業とのロイヤリティ契約により、EU域内でのフランチャイズ契約またはライセンス契約の売上高が2250万ユーロを超える企業、またはそのような企業グループの最終親会社。EU域外企業の場合、次の条件に該当する企業が対象です。①直近の会計年度の前年度にEU域内の純売上高が4500万ユーロを超える企業、②②単独では①の条件に達していないが、グループ全体で①の条件に達している企業の最終親会社、③独立した第三者企業とのロイヤリティ契約により、EU域内でのフランチャイズ契約またはライセンス契約の売上高が2250万ユーロを超え、EU域内で8000万ユーロを超える企業、またはそのような企業グループの最終親会社。
出典:環境省『環境デュー・ディリジェンス関連の 国際規範、海外法規制、ガイダンスの概要』p,8.(2024/03/21)
対象となる分野
環境へのリスクの影響については、国際条約の義務や禁止事項を明確に定義しています。例えば、市民的および政治的権利に関する国際規約や経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約など環境分野に関連する人権分野の国際規約や、生物多様性条約や絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)、国連海洋法条約など環境分野の国際条約が対象となります。
出典:環境省『環境デュー・ディリジェンス関連の 国際規範、海外法規制、ガイダンスの概要』p,8.9.(2024/03/21)
基準や条件
リスクベースの人権・環境DDの実施項目として次の項目があります。
①DDを自社の方針およびリスク管理システムに統合する
②実際または潜在的な負の影響を特定・評価する
③必要に応じて、潜在的および実際の負の影響に優先順位を付ける
④潜在的な負の影響を防止・軽減し、実際の負の影響を停止・最小限にする
⑤実際の負の影響を回復する
⑥影響を受けるステークホルダーと意味のある対話を行う
⑦通知メカニズムおよび苦情処理手続きを確立し、維持する
⑧DDの方針および手続きの有効性を監視し、検証する
⑨当指令の遵守を示す文書を5年以上保管する
また、自社のビジネスモデルと戦略を、持続可能な経済への移行およびパリ協定の1.5℃目標、さらには欧州気候法が定める2050年の気候中立と2030年目標に合うような移行計画を策定し、実施することが求められています。
出典:環境省『環境デュー・ディリジェンス関連の 国際規範、海外法規制、ガイダンスの概要』p,9.(2024/03/21)
指令に違反した場合はどうなる?
仮に指令に違反した場合、各EU加盟国の国内法に基づいて制裁措置が課されます。これには、最大で全世界売上高の5%までの金銭的制裁や、期限内に支払いに応じない場合には企業名や違反内容を公表する声明が含まれます。また、故意または過失によって、潜在的な負の影響の防止・軽減や実際の負の影響の停止・最小化の義務を守らず、個人や企業に損害を与えた場合には、少なくとも5年間その損害を全額補償することが求められます。
出典:環境省『環境デュー・ディリジェンス関連の 国際規範、海外法規制、ガイダンスの概要』p,9.(2024/03/21)
3. CSDDDによる企業への影響
CSDDDは、企業にどのような影響があるのでしょうか。ここでは、CSDDDによる企業への影響をご紹介します。
コストの増加
そもそも脱炭素化には、大きなコストがかかります。例えば再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の向上には多額の投資が必要で、これにより企業の運営コストが増加し経済的な合理性を持つことが難しくなります。ドイツやスペインでは、企業が脱炭素化に伴うコスト増を販売価格に転嫁することが一般的で、この場合、消費者が高いか価格を払うことになりますが、企業はコストを回収することができます。
出典:ジェトロ(日本貿易振興機構)『EUからみた影響と展望』p,16.(2024/09/26)
コンプライアンス体制の強化
ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は、2024年5月24日にCSDDDは欧州企業に対し広範な義務、責任、制裁を課す、EU史上最大の企業法改革であるとし、コンプライアンス対応に伴う企業の負担が増加することに懸念を示しました。コンプライアンスとは、企業が活動する際に関連する法律や規則をしっかりと守るための取り組みのことで、コンプライアンスを徹底するためには、従業員一人ひとりが法令遵守の重要性を理解し、実際に守ることが重要です。
そして、企業の経営者は自らリーダーシップを発揮し、従業員が従業員が自主的にコンプライアンスに取り組める職場環境を整えることが求められます。
出典:ジェトロ(日本貿易振興機構)第3節 持続可能な社会に向けた取り組み』p,10.11.(2024/07/25 )
出典:中小企業庁『CSR で』p,10.(2011/06/20)
ブランドの信頼性の強化
気候変動の問題は、今や社会全体で企業の財務に重大な影響を与えています。企業が温室効果ガスの排出を削減する取り組みは、ESG(環境・社会・ガバナンス)やインパクト投資に関心を持つ株主や投資家だけでなく、伝統的な株主や投資家にとっても企業価値の一部と見なされるようになっています。
そこで、企業が社会の問題を解決し、社会に価値を提供するためには、株主や投資家にとっての企業の価値と、その他の関係者にとっての企業の価値を共通のものにする必要があります。そして、企業と社会の双方が共通の価値を広げていくための努力が求められています。
出典:経済産業省『「SDGs 達成へ向けた企業が創出する 『社会の価値』への期待」に関する 調査研究報告書』p,6.7.(2020/07/20)
4. CSDDDに取り組む先進企業の事例:丸井グループ、アサヒ、味の素
最後に、CSDDDを導入している企業の取り組み事例をご紹介します。
株式会社丸井グループ
ファッションビルの丸井やクレジットカード事業を行うエスポカードなどを傘下に持つ持株会社の「株式会社丸井グループ」は、環境問題への対応で先頭に立つことを目指しており、将来のビジョンを社会に示すことが重要だと考えています。そこで、「丸井グループ環境方針」を掲げ、環境に関する重要なリスクを正しく特定し、それを報告し、フォローすることで環境DDを実施することを明確にしています。
出典:環境省『環境デュー・ディリジェンスに関する取組事例集』p,4.(2024/06)
アサヒグループホールディングス株式会社
ビールを中心とした酒類、飲料、食品を展開する「アサヒグループホールディングス株式会社」は、持続可能な農産物の原材料に関する取り組みとして、各事業で使用される重要な農産物と世界36ヵ国におよぶ生産地における環境リスクと人権リスクを評価し、それに対するリスク対策を進めています。評価されたリスクについては、影響が大きいと考えられる農産物原料のサプライヤーと情報を共有し、アンケート調査や現地訪問などを通じて現地の情報を確認しながら、リスク対策を進めています。
出典:環境省『環境デュー・ディリジェンスに関する取組事例集』p,16.(2024/06)
味の素株式会社
日本の食品企業「味の素株式会社」は、2030年までに、プラスチックの使用は製品の安全性や品質に必要な最小限の用途と量に厳選し、使用するプラスチックは全てモノマテリアルまたはリサイクルに適した素材に転換します。また、製品を生産・販売する各国・地域におけるプラスチックの回収、分別、リサイクルの取り組みを支援し貢献することを目指しています。
出典:環境省『環境デュー・ディリジェンスに関する取組事例集』p,19.(2024/06)
5. まとめ:CSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)の理解を深め企業のステップアップを!
CSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)は、企業が環境や社会に与える影響を評価し、その影響を最小限に抑えるための指令です。この指令は、企業が持続可能な方法で運営されることを確保し、環境や社会に対する責任を果たすことを目指しています。企業は定期的にデュー・ディリジェンスを行い、その結果を開示することが求められています。
また、パリ協定の1.5℃の目標や欧州の2050年気候中立、2030年目標に合わせた移行計画を立て、それを自社のビジネスモデルや戦略と一致させる必要があります。ぜひ、CSDDDの理解を深め、ロールモデルとなることで社会の先頭にありつづける企業を目指しましょう。