炭素税の先進事例を解説!カナダ・シンガポール・スウェーデンに注目

炭素税の各国事例について、わかりやすく解説します。気候変動対策のひとつとして各国で導入されている炭素税ですが、どのぐらいの税率で、いつ徴収され、何に使われているのかなど、詳細に理解している方は多くはないでしょう。そもそも炭素税の在り方自体、国によって考え方が違うこともあり、必ずしも世界共通というわけでもありません。炭素税の運用方法などを通じて、各国の姿勢の差異などが見えてくる場合もあります。

本記事では炭素税の概要、日本における炭素税、世界各国の炭素税先進事例などについて取り上げます。

目次

  1. 炭素税とは

  2. 日本における炭素税

  3. 世界各国の先進事例

  4. まとめ:炭素税への対応を進め、脱炭素社会を実現しよう!

1. 炭素税とは?仕組みと役割をわかりやすく解説

炭素税は、排出権取引やカーボンクレジットなどと同様、CO2排出抑制を促すカーボンプライシングの一種です。炭素税の概要について解説します。

炭素税の概要

企業などの排出するCO2(カーボン、炭素)に価格をつけ、それによって排出者の行動変容を促す政策手法を「カーボンプライシング」と言います。炭素税はカーボンプライシングの一種で、企業などが燃料や電気を使用して排出したCO2に対して課税するというものです。炭素税以外のカーボンプライシングには、企業間でCO2の排出量をやりとりする「排出権取引」、CO2の削減量を証書化して売買する「カーボンクレジット」などがあります。

炭素税において、企業はCO2排出量に比例して課税されることになるため、エネルギーを使えば使うほど大きな税負担を強いられることとなります。そのため、CO2排出量抑制やクリーンエネルギー導入などの取り組みが加速することが期待されます。

出典:資源エネルギー庁「脱炭素に向けて各国が取り組む『カーボンプライシング』とは?」(2023/5/15)

出典:環境省「炭素税について」p4-5

炭素税の使途

炭素税として納められた税金は、脱炭素事業創出などエネルギー供給者の構造転換や、脱炭素技術の導入など需要サイドの取り組み推進に活用されることが考えられます。あるいは家計の支援に充てる・財政赤字の削減に充当するといった使途もありえますが、課税目的と使途があまりかけはなれていると、課税対象者からの理解を得にくいとの指摘もあります。また脱炭素社会が実現することで、カーボンプライシングによる税収入は将来ゼロになることから、恒久的に必要な財源に充てることは不合理であるとも言われています。

出典:環境省「炭素税について」p36,38

2. 日本の炭素税:地球温暖化対策税の仕組みと効果

日本でも一部で炭素税が導入されています。日本における炭素税について解説します。

地球温暖化対策税の概要

日本では2012年10月1日から「地球温暖化対策のための税」(以下「地球温暖化対策税」)が段階的に施行され、2016年4月1日に最終税率への引上げが完了しました。当税制は、石油・天然ガス・石炭といったすべての化石燃料の利用に対し、CO2排出量に応じて負担を求める炭素税です。具体的には、CO2排出量1トンあたり289円となるよう、化石燃料の量(キロリットル又はトン)あたりの税率が設定されています。

地球温暖化対策税は、課税により化石燃料に由来するCO2の排出抑制を進めるとともに、その税収を活用して再生可能エネルギーや省エネ対策などを強化することを目的に創設されました。

出典:環境省「地球温暖化対策のための税の導入」

地球温暖化対策税の規模

日本政府は地球温暖化対策税について、導入初年度391億円・平年度2,623億円の税収を見込んでいます。また家計負担については、平均的な世帯で月100円程度、年1,200円程度の追加負担と見積もっています。一方で省エネルギーの取組みを進めることで、税額を抑えることが可能です。たとえば冷房の温度を1℃高く、暖房の温度を1℃低く設定することで、年間約1,800円の節約、1日5分間のアイドリングストップを行うことで年間約1,900円の節約が可能です。さらに前者では約33kg、後者では約39kgのCO2削減にもなります。

出典:環境省「地球温暖化対策のための税の導入」

地球温暖化対策税の効果

地球温暖対策税の創設当時、研究機関の試算では課税によるCO2削減効果は2020年において1990年比で約▲0.5%~▲2.2%(量にして約600万トン~約2,400万トン)のCO2削減効果が見込まれるとされています。また低炭素の技術・取組みが経済社会全体に浸透することによって、さらなるCO2削減効果も期待されていました。ちなみに2022年における日本国内のCO2削減量は1990年度対比▲11%(▲12.6億トン)となっています。このうちどこまでが地球温暖化対策税の直接的な効果なのかは不明ですが、国内でCO2排出削減の取り組みが進んだことは間違いありません。

出典:環境省「地球温暖化対策のための税の導入」

出典:環境省「2022年度の温室効果ガス排出・吸収量(概要)」p2(2024/4/12)

3. 世界各国の先進事例

日本以外でも、様々な国で炭素税が導入されています。世界各国の炭素税先進事例をご紹介します。

カナダの事例

カナダでは、2018年に「連邦温室効果ガス汚染価格付け法(Greenhouse Gas Pollution Pricing Act、以下GGPPA)」が施行され、一般国民を含む化石燃料ユーザーに対する「連邦炭素税制度」が設けられました。これはガソリンや軽油に対して2023年で65 Cドル/トン課税、課税額は1年ごとに15 Cドル/トン上昇し、2030年には170 Cドル/トンに達するというものです。課税水準が毎年上がっていくことから、カナダでは電気自動車やハイブリッド車へのシフトが進みつつあります。

出典:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「カナダにおけるCO2排出規制と政策動向 2050年カーボンニュートラル実現へ向けた取り組み」(2021/11)

シンガポールの事例

シンガポールでは、炭素税の課税対象となる排出量をオフセット(相殺)できる「国際カーボン・クレジット(ICC)フレームワーク」が導入されています。これによって炭素税の対象となる企業は2024年1月以降、課税対象となる排出量をICCを用いて最大5%オフセットできるようになりました。シンガポールの炭素税は、温室効果ガス1トンあたり5シンガポール・ドル(約545円)ですが、今後は2024〜2025年に25Sドル、2026〜2027年に45Sドルへと引き上げられる予定です。

出典:国立行政法人日本貿易振興機構「炭素排出量オフセット可能なカーボン・クレジット基準を発表」(202/10/12)

スウェーデンの事例

スウェーデンは、なんと30年以上も前となる1991年に、酸性雨対策として炭素税を導入しています。課税対象は石油製品・天然ガス・石炭で、税収使途は一般財源です。元々スウェーデンでは非化石エネルギーである水力や原子力が発電源の多くを占めているため、炭素税を導入しても負担は限定的なものにとどまるというお国事情も関係しています。さらにスウェーデンは非製造業が中心であることも、産業構造の転換を容易にしています。

出典:経済産業省「海外の炭素税・排出量取引事例と我が国への示唆」p6-9(2021/4/22)

4. まとめ:炭素税への対応を進め、脱炭素社会を実現しよう!

炭素税は、CO2排出に対する支出を求めるカーボンプライシングの一種です。排出量に対して課税する炭素税の導入によって、課税回避のためのCO2排出抑制や、非化石エネルギーへの転換を促す狙いがあります。日本でも地球温暖化対策税が、2012年から導入されています。世界各国でも炭素税の事例は多く見られますが、課税水準が高いカナダ、クレジットによるオフセットを認めているシンガポール、30年以上も前から炭素課税を実施しているスウェーデンなど、さまざまな先進事例があります。

CO2排出抑制など炭素税への対応を進め、脱炭素社会の実現を目指しましょう。

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