PCAFとは?概要や加盟するメリット・デメリットを詳しく解説

この記事では、PCAFの概要と加盟することで得られるメリット・デメリットを詳しく解説します。PCAFは、金融機関が気候変動に対応するための国際的な枠組みです。気候変動リスクへの対応が求められる中、この枠組みは金融機関が投資や融資に伴う温室効果ガス(GHG)排出量を測定・管理するためのガイドラインです。

これにより、環境への配慮を企業活動に組み込みやすくし、持続可能な成長を促します。しかし、加盟には一定のコストやリソースが求められるため、メリットだけでなくデメリットも理解しなければなりません。すでにPCAFに加入済みの金融機関と事例をご紹介するため、加入を検討している機関は参考にしていただけると幸いです。

目次

  1. PCAFとは?

  2. PCAFの現状と重視される3つの理由

  3. PCAFに加入するメリット

  4. PCAFに加入中の日本の金融機関と事例

  5. まとめ:PCAFへの加盟は今後広がると予想

1. PCAFとは?

PCAFの概要と設立された目的を解説します。

(1)概要

PCAF(略:Partnership for Carbon Accounting Financials)は、金融機関が投融資による温室効果ガス(GHG)排出量を測定・報告するための国際的なイニシアチブです。2015年にオランダの金融機関14社が集まって設立され、2019年4月以降は、世界中の銀行、資産運用会社、保険会社など全227機関が加盟し、統一された方法で排出量を算出する指針を提供しています。

この枠組みでは、以下の5つの把握プロセスをもとに、各金融機関が投融資ポートフォリオにおける温室効果ガス(GHG)排出量を標準化して測定・報告するよう求めています。

・分析対象アセットクラスの決定

・分析対象セクターの決定

・投融資先のGHG排出量データの収集

・投融資先の財務活動量データの収集

・ファイナンスドエミッションの計算

これにより、加盟金融機関は気候リスクの管理や持続可能な投資判断を行いやすくなります。PCAFは透明性と信頼性の向上を通じて、金融業界の気候変動対策を促進しています。

出典:環境省「ポートフォリオ・カーボン分析の 活用と高度化に向けた検討報書」p6

(2)目的

PCAFは、加盟機関が投融資ポートフォリオのGHG排出量の計測と、開示基準を共同で開発することを目的に設立された枠組みです。これは、世界目標である温室効果ガス排出削減を促進させるために、金融業界全体で透明性と一貫性のあるデータを提供し、持続可能な金融の意思決定を支えることを意図しています。

PCAFの枠組みにより、加盟機関は気候変動リスクへの対応を強化し、気候関連の目標達成に向けた取り組みを効果的に進めることが可能となります。

出典:環境省「ポートフォリオ・カーボン分析の 活用と高度化に向けた検討報告書」p6

2. PCAFの現状と重視される理由

2016年のパリ協定を契機に、各国はGHG排出量削減を目指して独自の取り組みを進めています。日本でもGX基本方針が策定され、温暖化対策が推進されていますが、その実現にはサステナブルファイナンスが不可欠であり、関連議論が活発化しています。

具体的には、気候関連情報の開示の制度化やネットゼロ投資の促進が求められています。これにおいては、企業の取り組みを評価する金融機関の役割が重要です。PCAFは、金融機関がネットゼロ移行の進捗を国際的に統一した枠組みで評価するための基盤を提供し、その必要性が高まっています。

出典:脱炭素等に向けた金融機関等の取組みに関する検討会報告書 ネットゼロに向けた金融機関等の取組みに関する提言(ガイド) p4

3. PCAFに加盟するメリット・デメリット

サステナブルファイナンスが重視されていることにより、PCAFは世界的に注目されている枠組みです。しかし、加盟の決定には、この枠組みのメリットとデメリットを理解する必要があります。

(1)メリット

PCAFに加盟することは、パリ協定のもとで温室効果ガス削減に取り組む国々の金融機関にとって、社会的責任を果たす有効な手段です。加盟により、投融資先の排出削減努力を反映した実数を把握でき、高品質なデータによる経年比較や分析が可能です。

これにより、投融資先とのエンゲージメントも促進されます。さらに、排出量データを開示していない投融資先の分析も可能で、売上高データを活用することで、データ取得や蓄積コストを低く抑えることも可能です。

(2)デメリット

PCAFに加盟することで社会的責任を果たし、投融資先の評価が可能になるため、加盟自体に大きなデメリットはありません。しかし、投融資先の分析においては考慮する必要があります。具体的には、ボトムアップ分析では排出量を開示する企業が限られており、ポートフォリオのカバー率が低い点が問題です。また、データの取得や蓄積にはコストがかかります。

トップダウン分析では、投融資先の排出削減努力が即座に反映されず、セクター平均の排出強度に基づく推計ではデータの質が低い可能性がある点に注意が必要です。さらに、企業の排出量が実態に合わない場合、エンゲージメントが進まなくなることもあります。

出典:環境省「ポートフォリオ・カーボン分析の 活用と高度化に向けた検討報告書」p11

4. PCAFに加盟中の日本の金融機関と事例

PCAFの加盟数は、2024年3月時点で世界75ヵ国以上・470以上の金融機関が加盟しており、その数は年々増加すると予想されます。ここでは、すでにPCAFへ加盟している日本の金融機関と取組事例を紹介します。

(1)PCAF加盟中の主な日本の金融機関

2021年11月に、日本のPCAF加盟機関で構成された「PCAF Japan coalition」が発足しました。日本のPCAF加盟機関数はアジアで最大規模を誇り、国際的にも重要な役割を担っています。2022年2月時点の日本の加盟機関は、りそな銀行や日本生命保険など全25機関です。

銀行や生命保険会社などの多様な金融機関が参画しており、金融活動を通じた温室効果ガスの排出量計測、参加者間のコラボレーション、ベストプラクティスの共有を促進することで、温室効果ガス排出削減に向けた取り組みを進めています。

出典:PCAF Japan Coalition Report 2024 p6

(2)【事例】りそな銀行

PCAFに加盟機関・りそな銀行の取組み事例を紹介します。

分析目的

分析アプローチ

・気候変動関連業種の炭素強度の把握と、重要セクターの再確認

・大手企業と中小企業の炭素強度の違いの把握と、今後のエンゲージメントの参考分析

・自社実施予定の住宅ローンの排出量計測方法の知見

・TCFD炭素関連7セクターを対象に、分析を実施

・排出量データを取得できる約150社の上場企業に対しては、ボトムアップ分析を実施

・排出量データを取得できない中小企業については、トップダウン分析を実施

・高排出セクターとシナリオ分析による高リスクセクターとの比較

・住宅ローンの排出量計測のトライアル

出典:環境省「ポートフォリオ・カーボン分析の 活用と高度化に向けた検討報告書」p13

5. まとめ:PCAFへの加盟は今後広がると予想

深刻化する気候変動問題の解決は、企業だけでなく金融機関の取り組みが重視されています。PCAFへの加盟は、金融機関が気候変動に対応し、持続可能な社会を目指すための大切な一歩です。温室効果ガスの排出量を測り、管理する必要性が増す中で、PCAFは共通の基準を提供し、業界全体の透明性を高めています。

多くの機関が加盟することで、知識や経験の共有が進み、全体の意識も高まると考えられます。このような流れから、PCAFへの加盟は今後も広がり、気候変動への取り組みをさらに後押しすることが期待されます。

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