IPCCとは何?評価報告書についても解説
- 2024年11月13日
- 環境問題
気候変動に関するニュースなどでよく耳にするIPCCについて、わかりやすく解説します。国際的な組織であるIPCCは、世界の気候変動政策に大きな影響を与えています。また日本も、IPCCの中で一定の役割を果たしています。IPCCの活動の中でも特に重要なのが、「報告書」の作成です。IPCCについての理解を深めることで、環境問題への関心が一層高くなることでしょう。
本記事ではIPCCの概要、IPCCの報告書の内容や今後の予定などについて取り上げます。
目次
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IPCCとは
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第6次評価報告書(AR6)サイクルにおける各報告書の内容について
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第7次価報告書(AR7)サイクルにおける決定事項について
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まとめ:IPCCの報告書で気候変動の状況について確認しよう!
1. IPCCとは
IPCCは、気候変動問題に関する国際的な組織です。IPCCの概要について解説します。
IPCCの概要
IPCCは「Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)の略称です。IPCCは世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって1988年に設立されました。
2022年3月時点における参加国と地域は195となっています。IPCCの役割は科学誌などに掲載された論文などの文献に基づいた定期的な報告書を作成・公表し、各国政府の気候変動に関する政策に対し科学的な基礎をあたえることです。IPCCからは1990年から2023年までに、6つの定期報告書がリリースされています。
出典:資源エネルギー庁「気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?」(2022/10/22)
IPCCの組織
IPCCには、3つの作業部会(WG、ワーキンググループ)と1つのタスクフォース(TF)が置かれています。
WG1: 気候システムおよび気候変動の自然科学的根拠についての評価
WG2: 気候変動に対する社会経済および自然システムの脆弱性、気候変動がもたらす好影響・悪影響、並びに気候変動への適応のオプションについての評価
WG3: 温室効果ガスの排出削減など気候変動の緩和のオプションについての評価
TF: 温室効果ガスの国別排出目録作成手法の策定、普及および改定
これらのWGやTFを統括しているのが、総会・ビューロー(議長団)・執行委員会・事務局です。
2. 第6次評価報告書(AR6)サイクルにおける各報告書の内容について
IPCCの最新の報告書は、第6次評価報告書です。第6次評価報告書の内容について解説します。
評価報告書
評価報告書(AR、Assesment Report)は、作業部会(WG)ごとに作成されます。最新のAR6の内、WG1報告書は2021年に公表されました。その主要なメッセージは、「人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がなく、大気・海洋・雪氷圏・生物圏において広範かつ急速な変化が現れている」「温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21 世紀中に1.5℃~2℃の地球温暖化となる」「人為的な地球温暖化を特定の水準に制限するには、CO2の累積排出量を制限し、少なくとも正味ゼロの CO2排出を達成し、他の温室効果ガスの排出も大幅に削減する必要がある」などの内容を含んでいます。
出典:環境省「IPCC第6次評価報告書の概要」p4,5(2023/5)
統合報告書
IPCCの統合報告書は、WG1~3報告書の知見を統合したものです。AR6の統合報告書は2023年3月に公表されました。その主なメッセージは、「1850〜1900年を基準とした世界平均気温は2011〜2020年に1.1℃の温暖化に達した」「2030年の世界全体のGHG排出量では、温暖化が21世紀の間に1.5℃を超える可能性が高く、温暖化を2℃より低く抑えることがさらに困難になる可能性が高い」「この10年間に行う選択や実施する対策は、現在から数千年先まで影響を持つ」「温暖化を1.5℃に抑える場合は2050年初頭、2℃に抑える場合は2070年初頭での、世界全体でのCO2排出量正味ゼロ達成が必要」などの内容を含んでいます。
出典:環境省「IPCC 第6次評価報告書(AR6)統合報告書(SYR)の概要」p1-4(2023/4)
特別報告書
IPCCのAR6には、特別報告書として「1.5℃特別報告書」「土地関係特別報告書」「海洋・雪氷圏特別報告書」が含まれています。この内2018年10月に公表された「1.5℃特別報告書」においては、地球温暖化が現在の速度で進行し続けると2030年から2052年の間に1.5℃に達する可能性が高いことや、気温の上昇が2℃の場合はサンゴ礁がほぼ全滅し1.5℃の場合は70-90%死滅することなどが、「確信度が高い」事象として挙げられています。また、パリ協定に基づき各国が提出した目標による2030年の排出量では、地球温暖化を1.5℃に抑えることはないであろうことなども説明されています。
出典:環境省「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル」
出典:環境省「1.5℃特別報告書の要点」(2020/3)
3. 第7次価報告書(AR7)サイクルにおける決定事項について
IPCCでは、AR6に続くAR7の予定を明らかにしています。AR7における決定事項を解説します。
第7次評価報告書(AR7)サイクルにおける各報告書
2023年7月に開催されたIPCC第59回総会において、ビューロー(議長団)メンバーなどが選出され、AR7プロセスが開始されました。WG1~3は従来と同様のテーマが予定されています。また特別報告書などについては、「気候変動と都市に関する特別報告書」「短寿命気候強制力因子(SLCF)インベントリに関する2027年IPCC方法論報告書」「二酸化炭素除去(CDR)技術・炭素回収利用および貯留(CCUS)に関する方法論報告書」の作成が決定しています。
出典:環境省「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第7次評価報告書(AR7)サイクル」
今後のスケジュール
2024年1月に開催されたIPCC第60回総会では、AR7サイクルで作成する成果物およびスケジュールが議論されました。2024年~2025年に各報告書の章立てが決まり、その後執筆者の選定や査読を経て、2027年に特別報告書・2028年に作業部会報告書・2029年に統合報告書が公表される予定となっています。
出典:文部科学省「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などに関する国際動向」p7(2024/2/9)
日本における取り組み
日本国政府にとってIPCCの活動は、気候変動に関する科学的知見の集積を行うという観点や、国連気候変動枠組条約の動向との関係性から、非常に重要です。そのため関連4省庁(環境省・文部科学省・気象庁・経済産業省)が「IPCC国内連絡会」を設置して、IPCC活動に参画する研究者への支援を積極的に行っています。同連絡会は年1~2回程度開催され、IPCC活動全般についての進捗状況把握、AR7作成に関する情報の共有化とそれに関する意見交換などを図っています。
出典:環境省「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第7次評価報告書(AR7)サイクル」
4. まとめ:IPCCの報告書で気候変動の状況について確認しよう!
IPCCは気候変動に関する科学的知見をまとめ、各国政策に役立てるための、国際的な組織です。IPCCの報告書は現在第7サイクルの作業中で、日本国政府も積極的に関与しています。これまでのIPCC報告書では、早急に温室効果ガスの排出を削減しないと地球温暖化に歯止めがかからないことなどが公表されています。世の中では地球温暖化について懐疑的な意見もありますが、IPCC報告書は国際的な機関が科学的知見からまとめたものですので、その中で挙げられている地球温暖化の現状については耳を傾ける価値があると言えるでしょう。
IPCCの報告書で気候変動の状況について確認し、私たちが取り組まなければいけないことについて理解を深めましょう。