マスバランス方式とは?基礎知識と期待できる効果をご紹介!
- 2024年08月28日
- CO2削減
マスバランス方式とは、企業が持続可能な経営に切り替える際に有効な手立てとなると注目されています。その一方で、マスバランス方式の理解が浸透していないことから誤解を招く懸念も指摘されています。今後、マスバランス方式の活用を進める上でも、企業はマスバランス方式についてしっかりと理解を深めることが重要です。ここでは、マスバランス方式の基礎知識をしっかりと理解した上で、マスバランス方式の活用で期待できる効果や課題、マスバランス方式とカーボンフットプリント算定についてご紹介します。
目次
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マスバランス方式とは何か
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マスバランス方式活用の効果と課題
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マスバランス方式はCFP算定に活用できるのか?
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マスバランス方式を導入している企業の事例
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まとめ:マスバランス方式の知識を深め活用し持続可能な経営を目指そう!
1.マスバランス方式とは何か
まずはじめに、マスバランス方式とは何か、また、それが注目されている背景をご紹介します。
マスバランス方式とは
マスバランス方式とは、製造プロセスにおいて原材料やエネルギーなどの「入力」と、製品の「出力」の間で環境価値などの特性を調整しバランスを取るアプローチです。この手法では、異なる特性を持つ原料を混合して製品を作る際に、それぞれの原料の割合に応じて特性を割り当てることができます。例えば、バイオマス原料25tと化石資源原料75tを混ぜて製品を作る場合(入力)、製造後(出力)は全体として100tですが、マスバランス方式を使うと100tのうち100%バイオマス原料由来25t、100%化石原料由来75tと、入力量と比例して出力量の割合を数値化して表すことができます。
出典:内閣官房『我が国のグリーントランスフォーメーション 実現に向けて』p,20.(2023/9/14)
出典:環境省『マスバランス方式に関する国内外の状況等』p,4.(2023/06)
マスバランス方式が注目される背景
マスバランス方式は、バイオマスなどの再生可能資源の利用を大幅に増やし、2050年カーボンニュートラルを達成するための方法として、国内で広まっています。その背景には、プラスチック製品を含むさまざまな分野の製品でマスバランス方式を導入することで、バイオマスや再生原料の活用が促進されることが期待されています。しかし、期待の一方でマスバランス方式の導入による環境負荷の低減効果などについては、まだ十分な情報が集まっていないという課題もあります。
出典:エコマーク事務局『マスバランス方式による「バイオマス由来特性を割り当てた プラスチックを使用した容器包装』p,1.(2023/07/11)
出典:環境省『令和4年度マスバランス方式に関する研究会について』(2023/08/22)
2.マスバランス方式活用の効果と課題
マスバランス方式は環境に配慮した製品の提供ができる手段として期待される一方で、消費者に誤解を与えてしまう可能性もあると指摘されています。ここでは、マスバランス方式の効果と課題についてご紹介します。
マスバランス方式活用で期待できる効果
マスバランス方式は、製品のライフサイクル全体でのCO2排出量を評価し、企業が持続可能な選択肢を促進する手段として期待されています。企業が環境への影響を見える化し価値を高めるためには、マスバランス方式を使って環境に優しい製品(グリーン製品)の提供が有効で、そのためにはCO2排出量の削減とそれによって生まれるグリーン製品の市場づくりが重要です。グリーン製品の普及はCO2排出量削減に貢献し、2050年までにカーボンニュートラルを達成するための重要なステップとなります。
出典:環境省『環境基本計画(案)』p,67.(2024/03/29)
環境省による「マスバランス方式に関する研究会」の設置
マスバランス方式の導入による環境への負担の低減効果については、まだ十分な情報が集まっていないという現状があります。この情報取集の課題について環境省は、マスバランス方式に関する国内外の現状を整理し、企業や専門家から意見を聞くために「マスバランス方式に関する研究会」を設立しました。令和2月から3月にかけて3回の会議を開き、バイオマス由来の特性を持つプラスチック製品について議論を重ね、今後はこの議論を基に関係省庁と協力して必要な対応を検討するものとしています。
出典:環境省『令和4年度マスバランス方式に関する研究会について』(2023/08/22)
グリーンウォッシュの懸念
企業が環境に配慮した取り組みの裏では、「グリーンウォッシュ」の声が上がっている状況があります。グリーンウォッシュとは、環境問題に取り組む企業が実際には環境配慮をしていないにもかかわらず、環境問題の解決をうたっていることです。プラスチック製品の場合、マスバランス方式を採用することで、実際に含まれるバイオマス成分の量に関わらず、バイオマス由来の環境に配慮したプラスチック製品として提供できます。しかし、企業側は製品の含有比率を正確に示し、消費者が製品の成分を正しく理解できるようにすることが、マスバランス方式全体の信頼を損なわないためにも重要です。
出典:公益財団法人 日本環境協会エコマーク事務局『エコマーク認定基準における「バイオマス由来特性を割り当てた プラスチック」の取扱方針』p,12.22.( 2022/05/17)
出典:環境省『マスバランス方式を用いてバイオマス由来特性を割り当てた プラスチックの考え方について』p,2.3.(2023/07/14)
3.マスバランス方式はCFP算定に活用できるのか?
カーボンフットプリントは、企業がCO2削減に取り組む上でとても重要な指標となります。ここで注目すべきは、マスバランス方式がカーボンフットプリント算定に活用できるかという点です。ここでは、カーボンフットプリント算定についてご紹介します。
カーボンフットプリント(CFP)の算定とは
カーボンフットプリント(Carbon Footprint of Product)とは、製品やサービスが生産から廃棄までの全過程でどれだけの温室効果ガスが排出するかを示す指標で、製品のライフサイクル全体にわたるCO2排出量を表し、製品が環境にどれだけ影響を与えているのかが分かるものとなっています。例えば、紙パック牛乳の場合、原料の乳牛の飼育・紙パック生産の「原材料調達」、牛乳製造 ・パッケージングでの「生産」、輸配送 ・冷蔵輸送における「流通・販売」、商品を冷蔵しておく「使用・ 維持管理」、紙パック収集 ・リサイクル処理における「廃棄・ リサイクル」までに排出されるCO2排出量全てがカーボンフットプリントということになります。
出典:経済産業省『サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けた カーボンフットプリントを巡る動向』
出典:経済産業省『カーボンフットプリント ガイドライン』p,4.(2023/05/26)
国際的な基準での扱い
国際的な基準によって、製品やサービスの評価方法が異なります。例えば、「ISO14067」ではマスバランス方式についての記載がありませんが、「ISO14040」ではデータの妥当性確認において重量のバランスの観点は有効であり、「ISO22095」ではマスバランス方式は、特性を持つ材料または製品が、その特性の全くないか一部しか持たない材料または製品と混合された場合に、入力した量に比例して出力量を主張できるものとされています。
出典:経済産業省『第3回 サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けた カーボンフットプリントの算定・検証等に関する検討会』p,25.(2022/12/12)
国内のCFPガイドラインでの扱い
マスバランス方式は、カーボンフットプリントの計算にも使えますが、具体的な適用方法は製造プロセスに応じたガイドラインを参照するものとしています。具体的には、「ISO22095」のマスバランスモデルを前提として適切な方法で生成物にCO2排出量を割り当てる必要があります。「ISO22095」のマスバランスモデルとは、特定の特性を持つ原料と持たない原料を混ぜることができる仕組みで、特性を持つ原料の量に応じて最終的な製品にその特性を割り当てることができます。つまり、特性を持つ原料がどれだけ使われたかに基づいて、製品にその特性が反映されるということです。そして、カーボンフットプリントの情報を提供する側と利用する側は、マスバランス方式の適用が不可能な場合があることを考慮し、事前にコミュニケーションを取り合って利用することが望ましいとしています。
出典:経済産業省『第3回 サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けた カーボンフットプリントの算定・検証等に関する検討会』p,25.(2022/12/12)
出典:環境省『マスバランス方式に関する国内外の状況等』p,4.(2023/06)
4.マスバランス方式を導入している企業の事例
最後にマスバランス方式を導入している企業の事例をご紹介します。
一般社団法人日本鉄鋼連盟
鉄鋼業の総合的な調査・研究機関を担っている一般社団法人日本鉄鋼連盟は、製鉄所から排出されるCO2排出量の削減前と削減後を正確に計算し、追加コスト負担などの要因を考慮してCO2削減量を特定し、それを製鉄所会社内で集約し管理しています。そして、製鉄会社はCO2削減の総量を販売方針に合わせて自由に割り当て、削減量マイナス100%の部分はCO2を100%削減した製品に、また、削減量マイナス50%の部分はCO2を50%削減した製品として対応させています。このような製品を「マスバランスに基づくグリーンスチール」とし、顧客のCO2削減活動に貢献しています。
出典:一般社団法人日本鉄鋼連盟『マスバランス方式を適用した グリーンスチール』p,2.3.(2023/11/29)
日本生活連合協同組合
日本各地の生活協同組合(生協・コープなど)や生協連合会が加入する日本生活連合共同組合は、2020年までにコープ商品(プライベートブランド)全体において、ブックアンドクレーム方式とマスバランス方式を使用した認証パーム油への切り替えを進めることを約束しています。そして、食品部門において2021年3月からマスバランス方式による認証パーム油の使用を開始しています。
出典:日本生活協同組合連合会『コープ商品、RSPO認証による持続可能なパーム油への切り替えを促進 | ニュースリリース 』(2021/02/02)
5.まとめ:マスバランス方式の知識を深め活用し持続可能な経営を目指そう!
マスバランス方式とは、製造プロセスにおいて原材料やエネルギーなどの「入力」と、製品の「出力」の間で環境への影響を最適化するために、製造プロセスや製品の設計を調節することです。この手法は、異なる材料を組み合わせ各原料の比率に基づいて、最終的な製品の特性を調節することができます。その特徴から、企業が持続可能な選択肢を促進するために、製品のライフサイクル全体でのCO2排出量を評価することが期待されています。その一方で、マスバランス方式は、割り当てられたバイオマス由来の特性量を実測できないため、消費者は割り当てられたバイオマス由来の特性に相当するバイオマス成分が実際に含まれていると誤解する懸念もあります。それでも、持続可能な社会の構築にマスバランス方式は必要であり、企業はマスバランス方式の知識を深めつつ消費者の信頼を損なわない努力をして、持続可能な経営を目指しましょう。