カーボンニュートラルのために必要な再生可能エネルギーの主力電源化とは
- 2022年06月15日
- 発電・エネルギー
菅総理は2050年までにカーボンニュートラルを達成すると宣言しました。そのためには再生可能エネルギーの主力電源化が必須です。世界的な潮流であるカーボンニュートラルとはいったいどのようなことなのか、それをなぜ2050年までに達成しなければならないのかを考えます。
また、カーボンニュートラル達成の鍵となるのが再生可能エネルギーの主力電源化です。そのためには再生可能エネルギーの特徴と課題を整理する必要があります。そして、中小企業がカーボンニュートラルという大きな流れにどのように対応するべきか考えましょう。
目次
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カーボンニュートラルとは
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カーボンニュートラルをめざす2つの理由
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再生可能エネルギーの主力電源化
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再生可能エネルギーの課題
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まとめ:中小企業による再生可能エネルギー利用の取り組み
1. カーボンニュートラルとは
カーボンは英語で「炭素」を、ニュートラルは「中立」を意味する言葉です。したがって、カーボンニュートラルを直訳すると、炭素中立という言葉になります。では、炭素中立とはいったいどんな意味の言葉でしょうか。
菅総理は2020年10月の所信表明演説において、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。
出典:首相官邸『令和2年10月26日 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説』(2020/10/26)
出典:資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?』(2021/2/16)
この演説にある「カーボンニュートラルは排出する温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする」というのは、温室効果ガスの排出量と吸収・除去量を差し引きゼロにすることです。
そのためには、温室効果ガス(主に二酸化炭素)の排出量を可能な限り削減しなければなりません。そのうえで、どうしても排出せざるを得ない温室効果ガスを吸収・除去量で相殺するという考え方なのです。
2. カーボンニュートラルをめざす2つの理由
なぜ、菅総理は所信表明演説でカーボンニュートラルの2050年までの実現という目標を掲げたのでしょうか。それには2つの理由があります。1つは地球温暖化の阻止、もう1つは新たなビジネスチャンスの獲得です。
(1)地球温暖化の原因である二酸化炭素排出を抑制するため
出典:環境省『地球温暖化の現状と原因、環境への影響|COOL CHOICE 未来のために、いま選ぼう。』
産業革命以降、世界中で石炭や石油・天然ガスといった化石燃料を大量に消費。大量の二酸化炭素が大気中に放出されました。その結果、1880年から2012年までの間に平均気温が0.85℃上昇したとされます。
では、平均気温が上昇すると私たちにどのような影響が出るのでしょうか。まず、極地や高山の氷雪が融けることによる海面上昇です。サンゴ礁からなる太平洋の島々では、水没する場所が出始めました。
次に、農作物への影響です。たとえば、リンゴのように寒冷地を好む作物は、温暖化すると実が赤くなりにくくなる着色不良がでます。
出典:環境省『令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第2章第1節 近年の異常気象と気候変動及びその影響の観測・予測』(2020)
これら加え、気温の上昇が異常気象の原因だとする指摘もあります。年平均気温の上昇に従って、猛暑や豪雨の日が増えています。地球温暖化による影響は私たちの生活に確実に影響与えているといえるでしょう。
(2)新しいビジネスチャンスに乗り遅れないため
出典:資源エネルギー庁『カーボンニュートラルって何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?』(2021/3/16)
カーボンニュートラルは日本だけではなく、世界的な潮流です。2021年にバイデン政権が発足すると、ヨーロッパだけではなくアメリカもカーボンニュートラルの導入に積極的になりました。
また、持続可能な開発目標(SDGs)はGRIF(年金積立管理運用独立法人)など、大規模な投資資金を管理する団体が投資の基準として採用しています。
つまり、SDGsを意識したカーボンニュートラルの考え方はビジネスに必要不可欠であり、かつ、カーボンニュートラル達成のための協力や技術開発は企業の成長にとって大きなチャンスとなるのです。
3. 再生可能エネルギーの主力電源化
現在の日本の電源構成と今後の目標
出典:資源エネルギー庁『再エネ | 日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問』 (2020)
再生可能エネルギーの主力電源化とは、電源構成に占める再生可能エネルギーの割合を増加させ、主力の電源とすることです。
電源構成とは、発電に利用される電源の内訳のことです。エネルギーミックスともいいます。各国の政府は自国の経済事情や電力供給の安定性、発電にかかるコスト、環境への影響などを考え、最適な電源構成を目指します。
出典:資源エネルギー庁『2020-日本が抱えているエネルギー問題(後編)』(2020/12/10)
現在の日本は火力発電に大きく依存しています。2018年度に限っても、全体の77%の電力を火力発電で生み出しています。カーボンニュートラルを達成するためには、火力発電の割合を減らし、化石燃料依存から脱却しなければなりません。
政府は2030年までに、再生可能エネルギーによる発電や原子力発電の割合を増やし、火力発電の割合を低下させる電源構成を目標としています。
再生可能エネルギーの種類とそれぞれの特徴
再生可能エネルギーとは温室効果ガスを排出せず、エネルギー源として永久に活用できると考えられているエネルギーのことです。主な再生可能エネルギーは太陽光・水力・風力・バイオマス・地熱です。
出典:資源エネルギー庁『制度の概要|固定価格買取制度|なっとく!再生可能エネルギー』
太陽光発電は太陽のエネルギーを太陽電池で直接電気に変えて発電するしくみで、固定価格買い取り制度のおかげで普及が進みました。風力発電は風の力で発電するもので、陸上だけではなく洋上も設置可能です。
水力発電は高低差を利用して水を落下させ、その際に発生するエネルギーを電力に変えるものです。大きなダムだけではなく、農業用水に使うような小さな設備でも発電する中小水力発電が注目されています。
また、火山国である日本では地熱を利用した地熱発電も期待できます。さらに、動植物をエネルギー源とするバイオマス発電は導入の仕方によってはゴミの減量に貢献できるかもしれません。
いずれにせよ、今後は化石燃料の割合をいかに低下させ、再生可能エネルギーを主電源にしていくかということが国全体として実行することさけられないでしょう。
4. 日本における再生可能エネルギーの問題
(1)世界に比べ高い再生可能エネルギーのコスト
出典:資源エネルギー庁『2017-09-14 再エネのコストを考える』(2017/9/14)
少し前のデータになりますが、資源エネルギー庁が作成した日本とヨーロッパの太陽光発電のコスト比較によると、日本はヨーロッパの倍のコストがかかっていることがわかります。
出典:資源エネルギー庁『太陽光発電について』(P5)(2020/11)
このことは、太陽光発電の買取価格にも影響しています。ヨーロッパ諸国との買取価格の格差は以前として大きいのが現状です。
(2)電力供給の不安定さ
出典:資源エネルギー庁『再エネ | 日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」』
再生可能エネルギーには季節や天候により発電量が増減するというデメリットがあります。電力が不足するときには季節や天候の影響を受けにくい火力や原子力を併用する必要があります。
たとえば、天候不順が続くと太陽光の発電量が減少するかもしれません。悪天候によって、風力発電設備や太陽光発電設備が破損してしまうこともあるでしょう。そういったリスクを回避しつつ、火力発電への依存を減らす努力が必要なのです。
(3)系統制約
出典:資源エネルギー庁『再エネの大量導入に向けて ~「系統制約」問題と対策』
電力は発電所で生み出され、消費地に送電線を使って送られます。再生可能エネルギーも発電場所から送電線を使って消費地に送られる点では従来と同じです。
しかし、折角発電した電力が送電線をつかって送られず無駄になってしまったり、地域全体の電力量がうまく調整できないというトラブルが発生しています。この問題を系統制約といいます。
たとえば、太陽光発電が盛んな九州地方では、電力の供給用が需要量を大きく上回り、送電線がいっぱいで太陽光発電の出力制御するという事態が発生しました。
出典:経済産業省『九州本土における再生可能エネルギーの 出力制御について』
こうした送電に関する問題は、送電網の強化など大規模な工事が必要となるため、一朝一夕に解決できません。
(4)課題の解決にむけて
現在、再生可能エネルギー普及の前にはコストや供給の不安定さ、系統制約などの壁が立ちふさがっています。これらのうち、コスト面はもっとも改善しやすいと考えます。太陽光パネルや発電用風車が量産されると、必然的にコストが低下するからです。
その一方、系統制約の解消は時間がかかります。送電網の整備や電力構成の見直しには長期的な視野が必要だからです。
したがって、もっとも改善しやすいであろうコスト面の改善と、次に改善の可能性がある需給バランスの調整や供給の安定化に取り組むのが妥当ではないでしょうか。
5. まとめ:中小企業による再生可能エネルギー利用の取り組み
カーボンニュートラルは菅総理が2050年までに達成すると国会で表明したことにより、政府の重要な指針として位置づけられました。今後、日本では生産活動や輸送、発電、電力消費などあらゆる場面で二酸化炭素の排出削減や再生可能エネルギーの導入への積極的な取り組みが求められるでしょう。
これは、中小企業でも例外ではありません。中小企業は省エネなどの従来から取り組まれている対策だけではなく、再生可能エネルギーによってつくられた電力の使用を求められるようになるでしょう。
それならば、消極的な導入ではなく、コスト削減や企業イメージのアップなどを意識したより能動的な活動で企業利益の向上を図るべきではないでしょうか。